露路ろじ)” の例文
火の番はいわゆる番太郎で、普通は自身番の隣りに住んで荒物屋などを開いているのであるが、この町の火の番は露路ろじのなかに住んでいた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ここへ、三味線堀からいろは屋がまわって来たが、店にお武家ぶけの客がおると見ると、横手の露路ろじについて勝手口へ顔を出した。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その内で自分の作物さくぶつを読んでくれる人は何人あるか知らないが、その何人かの大部分はおそらく文壇の裏通りも露路ろじのぞいた経験はあるまい。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次の日の午時ひるごろ、浅草警察署の手で、今戸の橋場寄りのある露路ろじの中に、吉里が着て行ッたお熊の半天が脱ぎ捨ててあり、同じ露路の隅田河の岸には
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
起きて見ると、眼の前の阪下から、ぬっと提燈ちょうちんが出る、すいと金剛杖が突き出る。それが引っ切りなしだから、町内の小火ぼやで提燈が露路ろじに行列するようだ。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
乏しい軒灯けんとうがぽつんぽつんと闇に包まれている狭い露路ろじを、忍ぶように押黙って二十歩ばかり行くと
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
殺された後家さんの家のある露路ろじの中から、不意に飛出して来た男にぶつかった、と云うんです。
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
庄吉の小学校時代からの後輩で文学青年の戸波五郎が、ちょうど彼の家と露路ろじをへだてて真向いに住み、縁先からオーイとよぶと向うの家から彼の返事をきくことができる。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ではそのお君さんの趣味というのが、どんな種類のものかと思ったら、しばらくこのにぎやかなカッフェを去って、近所の露路ろじの奥にある、ある女髪結おんなかみゆいの二階をのぞいて見るが好い。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まちほうへつづくみちうえには、かげろうがたち、そらいろはまぶしかった。しずかな真昼まひるで、人通ひとどおりもありませんでした。金魚売きんぎょうりのおじさんは、きっと、あっちの露路ろじへまがったのだろう。
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私の母よりズッと若い叔母おばは、皆が、『××直彦万歳ばんざあイ』を三度云って、在郷軍人の服を着た叔父を真中まんなかにして、うち露路ろじを出ようとしたら、あがかまちのとこで、ワッと大声で泣き出した。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
で、露路ろじの方へ突進した。
畳まれた町 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それを露柴はずっと前から、家業はほとんど人任せにしたなり、自分は山谷さんや露路ろじの奥に、句と書と篆刻てんこくとを楽しんでいた。だから露柴には我々にない、どこかいなせな風格があった。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのときだ、ちょうどそこに露路ろじがあり、露路の奥から私の女が出てきたのだ。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
合宿の門を出ると、どぶくさい露路ろじに、夕方の、気ぜわしい人の往来ゆききがあった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
デパートの東北の露路ろじのアスファルトの上へです。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「二町目の角に洋食屋がありましょう。あの露路ろじをはいった左側です。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おい、おつる」亀さんが、暗い露路ろじから声をかけた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)