階上うえ)” の例文
お茶とお菓子を差し上げただけ、大した御用もないようで、私は階上うえへ上って欄干を渡るまでしばらくのあいだ眺めていました
またアパートに住んでいるとして、階上うえ又は階下したの部屋に、この恐るべき柱時計めが懸っていたとしたならどうであろう。
「青蘭」には、階上うえにも階下したにもかなりに客が立てこんでいて、それがみんな煙草屋の幽霊の噂をしているのだった。
銀座幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
腕っこきのハウス・メードを一人住込みステーさせます……それで、お家賃のほうですが、階上うえ階下したをつっくるみにして
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
子供、彼はどこにいるのかしら? 階上うえにいるのだった。その音が聞こえていた。ピアノを稽古けいこしていた。何をひいてるのか彼女にはわからなかった。
あるじの徐寧じょねいらしき人の声がする。妻、女中。階下した階上うえとを行きう足音。どうもここの家族は夜更よふかしらしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうしてじっと階上うえ動静ようすき耳を立てていると、はたして柳沢が大きな声で何かいっているのが聞える。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
丁度この下座敷の階上うえに、硝子戸ガラスどを開ければ町につづいた家々の屋根の見える岸本の部屋があった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この病棟には患者が階上うえ階下した恰度ちょうど十人いたけれど、ここに出て来るのは私を入れて四人であった。
「そうだよ、幾ら言っても同じことなんだ、問題は階上うえ階下したのことなんだよ。きみなら、ちょろちょろと泳いで階下まで行くが、人間はそうは簡単にゆかない。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
階下したの入口のところや階上うえの控えの間などに燈を入れている様子を見るにつけて、自分たちはこの屋敷へとんだ迷惑や騒動を持ち込んで来たものだと、そんな気もしはじめた。
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼はそう、併し、独語ひとりごとのように云いながら、階上うえへ行って了うのであったが、それはおそらく、解剖のときに、自分の手が思うように動かないことを気にんでいたのに相違ない。
彼はそこにしばらくじっとしていたが、やがてまた階上うえへ上っていった。それは振り子の最後の振動だった。翌日、彼はもうへやから出なかった。その翌日には、もう寝床から出なかった。
呼吸いきを詰めて一同が、はっと階上うえを見上げたせつなである。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つけて見る。ピストルの弾丸たまが飛んでくるかも知れないが動いちゃいけない。その後で懐中電灯を消すから、その隙に階上うえへとびあがるのだ。わかったかネ
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
岸本は硝子戸ガラスどに近く行った。往来の方へ向いた二階のてすりのところから狭い町を眺めた。白い障子のはまった幾つかの窓が向い側の町家の階上うえにも階下したにもあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それはすぐこのご本殿ほんでん階上うえ、三そうまでの階段かいだんをみな取りはずしてございますうえに、あのいけのほうにも、さむらいせておきましたゆえ、これまた、ご安心でござります」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは階下したの人はどんなにあせっても、二階のことが見えないと同じもどかしさなんだ、階下した階上うえとで人間が坐り合っていても、この二人は離ればなれになっているんだ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それで私は腹の中で、階下したのお婆さんのことを訊ねたのだが、それを訊くのも、やっぱり階上うえにいた女の母親のことを訊ねようとてであるから、これは、うまい具合だと思って
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「失礼」と私はもの柔らかな口調でいった、「これは有難い、イヷン・イヷーヌィチ、君はまだいてくれたね。じつは階上うえで訊くのを忘れたんだが、ここの郡会議長の名と父称を君は知らないかね?」
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
庇越しに、階上うえから細引で垂れ下がっているのだ。
ふすまの音や、わめき声が、なお、わずかな間、聞えては来たが、そのうちに、シーンと家の中が、妙にひそまり返ってしまった。階上うえ階下したも、人なきもののようになった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだよ、階下した階上うえでは大きなちがいだ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
思わず耳をすました階上うえの三人——。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「オオこれは提轄ていかつ(憲兵)さまで。よくいらっしゃいました。さ、どうぞ階上うえへ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)