鏡台きょうだい)” の例文
旧字:鏡臺
犬ですか? 犬は何でも、御新造はもとより、私もまだ起きない内に、鏡台きょうだいの前へたおれたまま、青い物を吐いて死んでいたんです。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうしたんだろうと変に思ったけれど、言われるままに私が鏡台きょうだいの前に座ると、髪結さんは、紅いてがらをかけた結綿ゆいわたを崩して高島田たかしまだに結い上げたのです。
とこした秋海棠しゅうかいどうが、伊満里いまり花瓶かびんかげうつした姿すがたもなまめかしく、行燈あんどんほのおこうのように立昇たちのぼって、部屋へや中程なかほどてた鏡台きょうだいに、鬘下地かつらしたじ人影ひとかげがおぼろであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
眼のきれの長い佳人かじんである。更衣室も無いので、仕切りの障子をしめ、二畳の板の間を半分はんぶんめた古長持の上に妻の鏡台きょうだいを置いた。鏡台の背には、破簾やれみすを下げてすすだらけの勝手を隔てた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
有合ありあう鏡台きょうだい抽斗ひきだしの、つげの小櫛もいつしかに、替り果てたる身のうさや、心のもつれとき櫛に、かかる千筋ちすじのおくれ髪、コハ心得ずと又取上げ、解くほどぬける額髪ひたいがみ、両手に丸めて打ながめ……
暴風雨の夜 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
その五ツの星が個々にばらばらと炸裂さくれつすると、あざやかな光傘をサッと重ねて、かむり鏡台きょうだい姥捨うばすての山々を真っ青に浮かせて見せたかと思うと、その一つの星の色が、臙脂えんじから出た人魂のように
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たね子はがっかりして本を投げ出し、大きいもみ鏡台きょうだいの前へかみいに立って行った。が、洋食の食べかただけはどうしても気にかかってならなかった。……
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
母もとうとう断念したらしく、鏡台きょうだい縁側えんがわに持ち出して私の髪をってくれたり、箪笥たんすの一ばん上の抽斗ひきだしから赤い支那緞子しなどんすきれでつくった巾着きんちゃく細紐ほそひもとを私にくれたりした。