鎧扉よろいど)” の例文
博士は椅子から立って、西側の窓の鎧扉よろいどをがらがらと明けた。——外は初冬の寒い風で、高台の街々はもう大方はが消えている。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鎧扉よろいどの隙間からながめると、空の低いところに仄白い夜明けの色が漂い、薄い霧が庭樹の間を川の流れのように動いているのがみえた。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そうして、姉さんはまず糸で鍵を操って扉を閉めてから、氷柱の具合を見定めて置洋燈に点火し、鎧扉よろいど式の縦窓たてまどを開きました。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ヘロインは、ふらふら立って鎧扉よろいどを押しあける。かっと烈日、どっと黄塵。からっ風が、ばたん、と入口のドアを開け放つ。
音に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
大概の家の壁が草色に塗られ、それがほとんど一様にめかかっている。そうしてどれもこれもおそろいの鎧扉よろいどが、或いはなかば開かれ、或いは閉されている。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
鎧扉よろいどを下してひっそり寝鎮まった近江屋の前、そこまで来て三つの人影が三つに散った。犬の唸り、低く叱る勘次の声、続いて石を抛る音、後はまたことりともしない。
鎧扉よろいどを半開きにしたいくつかの窓にも、昼間見るといずれもいきのいい肉屋のねえさんたちが、化粧をすっかり落して、こっちが恥かしくなるような、うすみっともない
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
木造の家や垣根がつづくだけで、どこにも人っ子ひとり見かけるではなく街路にはただ雪が光っているだけで、鎧扉よろいどをしめて寝しずまった、軒の低い陋屋がしょんぼりと黒ずんで見えていた。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
どこかで、風に煽られる鎧扉よろいどがバタンバタンと鳴りつづけ、それにまじって、階下したの扉口のほうで釘を打つような鋭い音がひびいてくる。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それと見るより拳銃ピストル片手に龍介君は扉口とぐちに突進した。しかしそこにも厳重に鎧扉よろいどが下りていたので、外へ出るまでにはたっぷり二分はかかっていた。
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
窓に微かな閃光がきらめいて、鎧扉よろいどの輪廓が明瞭に浮び上ると、遠く地動のような雷鳴が、おどろと這い寄って来る。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
同じ年恰好としかっこうの老婆、小さく痩せていて胸が鎧扉よろいどのようにでこぼこしている。黄色い肌で、乳房がしぼんだ茶袋を思わせて、あわれである。老夫婦とも、人間の感じでない。
美少女 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ヴェランダ、鎧扉よろいど、木の段段、——どれもきのう見た奴と殆ど変りはない。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
夜になってから、塀のそばへ行って、お隣りの二階のほうを見上げますと、どこもここもすっかり鎧扉よろいどがとざされて、灯影ほかげひとつれて来ません。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし、それ以外の部分は、玄武岩の切石積で、窓は高さ十尺もあろうという二段鎧扉よろいどになっていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その部屋はひどくほこり臭かった。勿論電灯は消えていたが、両側の窓の鎧扉よろいどが下りていないので、硝子窓ガラスまどから星空の光が入って来るため、部屋の様子は朧気おぼろげながらもよく見ることが出来た。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
というのは、その灰色の小さな建物は、どこからどこまで一面につたがからんでいて、その繁茂の状態から推すと、この家の窓の鎧扉よろいどは最近になって一度も開かれたことがないように見えたからである。
(新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そして、その強猛な直進力は、瞬間彼女を宙に吊り、そのまま直前の鎧扉よろいどに命中したので、そのはずみを喰って、クリヴォフ夫人はまりのように窓外に投げ出されたのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いくども呼鈴よびりんをおしましたが、誰れもドアを開けにきません。二階のほうを見あげてみますと、どの窓も、しっかりと鎧扉よろいどがとざされ、廃屋はいおくのように森閑としずまりかえっています。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
博士はしばらく外の冷たい風を吸ったのち、再び鎧扉よろいどを下ろして戻った。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
天気のいい日は、家の正面にまともに西陽にしびがさしかけ、りかえった下見板したみいたがほこりっぽく木目を浮きあげる。雨の日は、看板のうしろの窓の鎧扉よろいどが、ひっそりとしずくを垂らしていた。
そして、鎧扉よろいど式に十数条の縦窓が開くようになっていて、そこから外気が入ると、上方の熱い空気との間に気流が起って、それが中央の筒にある弁を押して回転させ、徐々に芯を押し出すのである。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この小屋馬車ルウロットも多分、そちらの方を目ざして進んでゆくのであろうが、この風体ではあまりたいした商売物ネタを積んでいるわけではなかろう、というのは、六つの家のドア鎧扉よろいどはみなち切れて飛び