鉄網かなあみ)” の例文
旧字:鐵網
待ち兼ねた連中は急いで立ち上がって、みんな鉄網かなあみの前へ集ってくる。この時長蔵さんの態度は落ちつき払ったものであった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が病気になつて後ある人が病牀のなぐさめにもと心がけて鉄網かなあみの大鳥籠を借りて来てくれたのでそれを窓先に据ゑて小鳥を十羽ばかり入れて置いた。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
翌日あくるひになるとズット味が出ますからそれへ玉子の黄身を入れて丸めて裏漉のパンで包んで鉄網かなあみで焼きますが下手へたに焼くと崩れますから焼き方が随分面倒です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その三方の壁に、黒い鉄格子と、鉄網かなあみで二重に張り詰めた、大きな縦長い磨硝子すりガラスの窓が一つずつ、都合三つ取付けられている、トテも要心ようじん堅固に構えた部屋の感じである。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昼は邸の裏の池に鉄網かなあみを張って飼ってある家鴨あひる家鶏にわとりいじったり、貸し本を読んだりして、ごろごろしていたが、それにもんで来ると、お庄をいびったり、揶揄からかったりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
只だ窓々に鉄網かなあみが張ってあるだけの事、また屋敷の向う側の土手に添うて折曲おりまがった腰掛がありまして、丁度白洲しらすの模様は今の芝居のよう、奉行のうしろにはふすまでなく障子がはまっていまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
否、ひとり、棒ぐいのみではない。そのかたわらの鉄網かなあみ張りの小屋の中に古色を帯びた幾面かのうつくしい青銅の鏡が、銅像鋳造の材料として積み重ねてあるのも見ないわけにはゆかなかった。
松江印象記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
薄く切ってバターを塗りながら鉄網かなあみで焼いてもよし、中をいて肉類や魚類の細かくしたものを野菜の細かく切ったものと混ぜて中へ詰めてまたよく煮てもよし
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その廊下の突当りの薄暗い壁のくぼみの中に、やはり私の部屋の窓と同じような鉄格子と鉄網かなあみで厳重に包まれた、人間の背丈ぐらいの柱時計が掛かっているが、多分これが
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
僕はそのそばに伏せてある鉄網かなあみ鳥籠とりかごらしいものをながめて、その恰好かっこうがちょうど仏手柑ぶしゅかんのごとく不規則にゆがんでいるのに一種滑稽こっけいな思いをした。すると叔父が突然、何分くさいねと云い出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて奉行屋敷の鉄網かなあみの張ってある窓から同心が大きな声をして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
犢ののどの下にあるわずかばかりの珍肉でそのシブレを十五分間熱湯の中で湯煮てまた十五分間冷水の中へ漬けておいて鉄網かなあみの上で上等のバターを塗りながらジリジリ焼いたのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もっと大きな二重硝子ガラスになっていて、その向うには、あんな鉄網かなあみの代りに鉄の棒が五本ばかり並んでいたんだけど、その硝子ガラス窓をはずして、鉄の棒のまん中へ寝台ベッドのシーツを輪にして引っかけて
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その拍子に鉄網かなあみの蓋が開いて、猫が二三匹ハヤテのように外へ飛出した。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
く手軽にすれば塩胡椒を振ってバターで十分間位もフライしてパンへせて出しますし、あるいは背開きにして塩胡椒を振って鉄網かなあみの上でバターを塗りながら十分間焼いてグレーにもします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)