醜男ぶをとこ)” の例文
恐らくあの醜男ぶをとこで不身持な爲三郎が、この娘にどんなにうるさく言ひ寄つたことか、平次にはよくわかるやうな氣がしたのです。
まあ、そのへつぽこ役人といつたらさ ma chèreシェール(いとしいかた)、そりやあひど醜男ぶをとこなの! まるでかめのこが袋をかぶつたみたい……。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
此家ここの隣屋敷の、時は五月の初め、朝な/\学堂へ通ふ自分に、目も覚むる浅緑の此上こよなく嬉しかつた枳殻垣からたちがきも、いづれ主人あるじは風流をせぬ醜男ぶをとこ
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其友達と云ふのは色の眞黒な眇視やぶにらみの又とない醜男ぶをとこなので、無職同樣の記者時代には、水轉藝者みづてんげいしやにまで振り飛ばされた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
私は彼がどちらかと云へば醜男ぶをとこの方であるが、しかし立派な紳士であること、また彼は私を親切に遇してくれ、私も滿足してゐるといふことなどを話した。
このミラボーは生れつき非常な醜男ぶをとこで、肉身の親父おやぢまでが、何かの拍子には
老いて醜男ぶをとこの道臣も、この村では第一の色師のやうに見られてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さらに天文学の発達が、月を疱瘡あばた面の醜男ぶをとこにし、天女の住む月宮殿の連想を、荒涼たる没詩情のものに化したことなども、僕等の時代の詩人が、月への思慕エロスを失つたことの一理由であるかも知れない。
月の詩情 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
妻も子もない醜男ぶをとこ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
金が欲しきア、彌助親方だ、——何だつて又選りに選つて、醜男ぶをとこで空つ尻で、取柄も意氣地もねえ丈吉などの眼玉を覗つたんだ
どうぢや、俺は美男ぢやらうが! 俺を醜男ぶをとこだなどと、他人ひとはくだらぬことを言ひをる。けれど、俺はお前にとつて立派な良人になれるのぢや。
醜男ぶをとこではあつたが、彼は、アポロ・ベルヴィディア(羅馬の法王宮殿の一室にあるアポロ)の優美さよりも、彼の「筋骨の逞しさ」の方を、彼女が選んでゐると信じてゐた。
一座の中でも、背の低い、色の黒い、有るか無きかの髭を生やした、洋服扮裝いでたち醜男ぶをとこが、四方八方に愛嬌を振舞いては、輕い駄洒落を云つて、顏に似合はぬ優しい聲でキャッ/\と笑ふ。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
醜男ぶをとこ8・8(夕)
八五郎に袖を引かれて振り返ると、身體だけは立派ですが、不機嫌な醜男ぶをとこが、怒つたやうな顏をして、默つて挨拶するのです。
さういふ態度をとると、彼の姿は顏と同じやうにはつきりと見えた——並外なみはづれた胸のはゞは手足の長さと均整がとれないほどだつた。きつと大抵の人は彼のことを醜男ぶをとこだと思ふだらう。
一座の中でも、背の低い、色の黒い、有るか無きかの髯を生やした、洋服扮装でたち醜男ぶをとこが、四方八方に愛嬌を振舞いては、軽い駄洒落を云つて、顔に似合はぬ優しい声でキヤツ/\と笑ふ。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
念入の醜男ぶをとこのくせに、輕捷で精力的で、何となくしたゝかさを感じさせる正三郎——丹之丞の遠い從弟とりいふ、針目正三郎その人だつたのです。
金は馬に喰はせるほど持つてゐるが、恐ろしい癇症かんしやうで、醜男ぶをとこと女は大嫌ひ、螢澤に浪宅を構へて、男ばかりの世帶。
兄の殿松は、かんが強くて、念入りの醜男ぶをとこだが、弟の捨吉はそりや好い男で、面と向へば見違へる筈はないが、暗いところで、わからなかつたんですね。
親分の勘兵衞は五十二で、鰐口わにぐち丁髷ちよんまげはせたやうな醜男ぶをとこだが、妾のお關は二十一、き立ての餅のやうに柔かくて色白で、たまらねえ愛嬌のある女だ。
八五郎の引合せたのを見ると、二十七八の大きな若い男、成程八五郎が言つたやうに、類の少い醜男ぶをとこですが、宮角力の大關位は取つたらしい見事な恰幅です。
どちらも惡い人間ではございませんが、喜八はあんな熊の子のやうな醜男ぶをとこの癖に、飛んだ道樂者で、二三日前にも隨分強意見こはいけんをいたしました、——その道樂を
幹助は熊の子のやうに不意氣で醜男ぶをとこだから、口ではお艶を大嫌ひで仕樣がないやうに言つてゐるが
少し智惠が足りない上に醜男ぶをとこで、お北をうるさく追ひ廻して居りましたが、今朝見るとお北お吉の寢てゐる二階の窓の下、丁度ひさしから羽目へかけての修復で、足場を組んだ眞下に
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
平次はその側に居る、三十近いこれは頑固な身體を持つた、醜男ぶをとこに話しかけました。
「私も逢つたことがありませんが、小夜菊に言はせると、あんな正直な良い男は無いと言ふし、下女のお咲に言はせると、あんな醜男ぶをとこは、廣い江戸に二人とはあるまいといふことで」
福松は道樂者で通人ではあつたが、恐ろしく醜男ぶをとこで、お由の氣に入らなかつたらしく、お由はまたお人形のやうに綺麗ですが、福松から見ると野暮つたい泥臭い娘に過ぎなかつたのでせう。
娘のお咲の婿むこにして、加島屋の跡取にしようとしたが、これも辭退をして受けなかつたさうで、——それといふのは、喜三郎は江戸一番の心掛の良い男だが、あばたで、見る蔭もない醜男ぶをとこです。
今度は間違ひがねえつもりだ。女のうらみは恐ろしいな、錢形の、——磯屋いそやの貫兵衞は江戸一番の醜男ぶをとこだが、あの弟分の菊次郎は、また苦み走つた飛んだ良い男さ。お蔦はあの男に捨てられたのを
いづれおとらず裕福なことと、今年の春死んだといふみさをの夫の小倉嘉門は、醜男ぶをとこでケチで、卑下慢ひげまんでお節介で、町内中の鼻つまみであつたといふこと、それにもかゝはらず、谷口金五郎と矢並行方は
男つ振りの好い人間から見ると醜男ぶをとこくづみたいに見えることでせう。
「さう言ふとあつしは、間拔けで、ぼんやりで、醜男ぶをとこ見たいですが」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「八は男つ振りが良過ぎるからだよ。岡つ引は醜男ぶをとこに限るつてね」