遠方此方おちこち)” の例文
そのほか、遠方此方おちこちにいた水野九蔵とか、山口半四郎とか、逆川さかがわ甚五郎とか、小姓衆や侍たちも、みな煙の内へかくれこんだ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
張飛はいつか張任を見失い、味方の小勢と共に遠方此方おちこち馳けあるいていたが、そのうちに四山旗と化し、四谷鼓を鳴らし
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山の手の遠方此方おちこちには、郷の者が戦に追われて、雲霞うんかのようにむらがっていた。秀吉は、黒鍬くろくわ(工兵)の組頭をよんで
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何時いつ、吉岡方の者が、師の報復をたくんで、ここへ迫って来ないとも限らない。武蔵は落着かない気持に時々駆られて、野の遠方此方おちこちを見まわした。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いと粗末ではあったが、形ばかりの祭事を行って後、諸侯は連れ立って、今は面影もなくなり果てた禁門の遠方此方おちこちを、感慨に打たれながら見廻った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坂道となり山陰となり渓橋けいきょうとなり、遠方此方おちこちの風景は迎接げいせついとまなく、かなり長い登りだが道の疲れも忘れてしまう。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「武術修行の遍歴者に、御自身、勿体ないお出迎え、いたみ入りまする。てまえが伊勢守秀綱です。——よいお構え、遠方此方おちこち、思わず眺め入りました」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、あなたこなたの、屋敷あとの大樹の蔭には、むしろを張り、雨戸をひろい、生き残った避難者たちが、遠方此方おちこちにあわれな一時しのぎをしているのが見える。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大山たいざんしわに棲むものは、鳥獣ばかりとは限らない。彼女が駈け歩いた峰や沢や山畑の遠方此方おちこちから、忽ちにして、むらがり集まって来た人間は、二十名以上もある。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、一歩おそく駈け出した若者ばらは、すでに渦巻いている遠方此方おちこちの戦闘を捨てて、云い合わせたように、敵のむらがりを目がけてその中核へ突き進んでいた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その遠方此方おちこちを、嘉治さん、Oさん、社長さん、悟空子、権宮司さんなど、影ちりぢりに、佇んだり、腰かけたり、うそぶいたり、しばらくはただ海潮音と松風の暗い中に
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠方此方おちこち幕舎とばりで、はや、将士の起き出る気配がする。正行は、どこかで顔を洗ってもどって来た。深くは眠れずに過ごしたのだろう。今朝もまた、瞼は赤くれあがっている。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、その血ぐさい身なりが、西のふもとへぶらぶら降りて行った頃、彼の貧しい生れ故郷百丈村にも、はや遠方此方おちこち、幾つもの小さい灯が、ぼやっと、霧の宵闇のうちににじんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汴城べんじょう城下、花の都。冬ながら宋朝文化爛漫らんまんな千がい万戸ばんこは、人の騒音と賑わいで、彩霞さいか、煙るばかりであった。禁裡きんりの森やら凌烱閣りょうけいかく瑠璃瓦るりがわらは、八省四十八街のその遠方此方おちこちにのぞまれる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪の御所内は諸殿しょでんの灯を遠方此方おちこちにちりばめて神々しいばかりである。供人ともびと殿でん法印ほういん以下は、衛府えふを入って、さらに中重なかえノ門までは参入したが、当然、そこからさきへは行かれなかった。
曹操の案内に従って、玄徳も遠方此方おちこち逍遥しょうようしながら、嘆服たんぷくの声を放った。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床几しょうぎにかけて、遠方此方おちこちの、かれには珍しそうな北越山脈の壮観や、裏日本の海の色など眺めながら、折々、左右の将と談笑している容子ようすは、まことに、遊歴にでも来ているような姿に見える。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、もっぱら、遠方此方おちこちで、取沙汰されているというのだった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠方此方おちこち、だいぶ梅も咲き出しました」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)