たくましゅ)” の例文
然うなら訊いても駄目だ。こんな風に僕はなお種々いろいろと憶測をたくましゅうしたが、要するに成行を待つ外はないという極めて平凡な結論に達した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
圧制あっせい偽善ぎぜん醜行しゅうこうたくましゅうして、ってこれをまぎらしている。ここにおいてか奸物共かんぶつども衣食いしょくき、正義せいぎひと衣食いしょくきゅうする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其婬心の深浅厚薄はしばらさしおき、婬乱の実をたくましゅうする者は男子に多きか女子に多きか、詮索に及ばずして明白なり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
欧羅巴ヨオロッパの某大国の Corpsコオル diplomatiqueジプロマチック で鍛えて来た社交的伎倆ぎりょうたくましゅうして、或る夜一代の名士を華族会館の食堂に羅致らちしたのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
出勤する途上に、毎朝邂逅であう美しい女教師があった。渠はその頃この女にうのをその日その日の唯一の楽みとして、その女に就いていろいろな空想をたくましゅうした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
息子の十蔵は、出先でつかまり、遠島送りになったが、途中、夜に乗じて、遠島船から海へとびこみ、江戸へ舞いもどって以来、自暴自棄な野性の生活力をたくましゅうしている男だった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬の背のような尾根をた上りに登って行く、登るに随うて大樹が次第に稀疎となって、熊笹がだんだん勢をたくましゅうして来る、案内の人夫連は間断なく熊笹や灌木を切り明けて進む
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
お政如き愚痴無知の婦人に持長もちちょうじられると云ッて、我程おれほど働き者はないと自惚うぬぼれてしまい、しかも廉潔れんけつな心から文三が手を下げて頼まぬと云えば、ねたそねみから負惜しみをすると臆測おくそくたくましゅうして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その進歩が行きづまって爆薬の出現となったものであるが、爆薬の方は不安定な化合物の爆発的分解によるもので、勢力のみなもとを分子内に求めている。勿論爆薬の方が火薬よりもずっと猛威をたくましゅうする。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
もうあの目が魔力をたくましゅうして、自分を引き寄せることが出来なくなったのではあるまいかと思われた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
既に同級生がれ志望を定めて夢想をたくましゅうしている今日、僕ばかり暢気のんきに構えていられない。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
依て一策を案じて内君を耶蘇やそ教会に入会せしめ、其目的は専ら女性の嫉妬心を和らげて自身の獣行をたくましゅうせんとの計略なりしに、内君の苦情遂に止まずして失望したりとの奇談あり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
少くも或る気まずい感情を起させるような事を、たれかがお玉に話したのではあるまいかとまで、末造は推測をたくましゅうして見た。それでも誰が何を言ったかは、とうとう分からずにしまった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)