込合こみあ)” の例文
しかし今時分、丁度酔客の込合こみあう時刻には、銀座のドンフワンなどへは君江との関係もあるところから、うかうか一人では行かれない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたしたちは七丁目なゝちやうめ終點しうてんからつて赤坂あかさかはうかへつてた……あのあひだ電車でんしやして込合こみあほどではいのに、そらあやしく雲脚くもあしひくさがつて、いまにも一降ひとふりさうだつたので、人通ひとどほりがあわたゞしく、一町場ひとちやうば二町場ふたちやうば
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
市中繁華な町の倉と倉との間、または荷船の込合こみあう堀割近くにある閑地には、今も昔と変りなく折々紺屋こうや干場ほしばまたは元結もとゆい糸繰場いとくりばなぞになっている処がある。
込合こみあ群集ぐんじゅながめて控える……口上言こうじょういいがその出番に
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅草郵便局の前で、細い横町よこちょうへの曲角で、人の込合こみあう中でもその最も烈しく込合うところである。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
電車がとまった。竜子はついと立上って込合こみあう乗客を突きのけて車を下りた。「乱暴な女だな」と驚いたもののあった位なので竜子は停留場のいずこであるかもしばらくは知らなかった。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
両国橋の橋間は勿論もちろん料理屋の立並ぶあたり一帯の河面かわもせはさすがの大河だいが込合こみあう舟に蔽尽おおいつくされ、流るる水はふなばたから玉臂ぎょくひを伸べて杯を洗う美人の酒にいて同じく酒となるかと疑われる。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
待ちあぐんだ人たちと、押合いながら降りる人たちとの込合こみあう間を、ようやく抜け出した一人の女が、鋪道ほどうに立っている中島の側を行過ぎようとして、その顔を見るや、「アラ中島さん。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)