豊穣ほうじょう)” の例文
方法に議論の余地があるばかりでなく、実はこの研究全体が結局あまり豊穣ほうじょうな分野をひらくという性質のものではなかった。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
広々ひろびろとした、田園でんえんのぞみ、豊穣ほうじょう穀物こくもつあいだはたら男女だんじょれを想像そうぞうし、嬉々ききとして、牛車ぎゅうしゃや、うまあと子供こどもらの姿すがたえがいたのであります。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
先ほど言ったように、その日は晴れた秋日和あきびよりだった。空はすきとおってうららかで、自然界はゆたかな金色の衣をつけ、豊穣ほうじょうな実りを思わせるのだった。
豊穣ほうじょうという感じが、気候や風景に就いても同断であるが、その生活に就いても全く見当らないのである。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして、「現実の汚濁を恐れずに抱擁したまえ。われわれの豊穣ほうじょうな大地の上に起ち上がりたまえ」と。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
西洋のそれと比較にならぬほど卓越していた筈の、東洋の精神界も、永年の怠惰な自讃に酔って、その本来の豊穣ほうじょうもほとんど枯渇こかつしかかっている。このままでは、だめだ。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その白いうなじに、坂本は接吻せっぷんしたい誘惑ゆうわくはげしく感じたが、二人の純潔じゅんけつのために、それをも差しひかえて、右の手をばし、豊穣ほうじょうな彼女の肉体を初めて抱きしめたのである
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
比較的豊穣ほうじょうな諸作の収穫と、穀価の騰貴とで、百姓は身体からだを粉にすることによって、小金を残していたから、一体に自作農階級が傲慢な、ことにも一段下の階級である私達には特に
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
恍惚こうこつとなったイカバッドは、こんなことを空想しながら、緑色の大きな眼をぐるぐるさせて、ゆたかな牧草地をながめ、豊穣ほうじょうな小麦や、ライ麦や、蕎麦そばや、玉蜀黍とうもろこしの畑を見わたし