討入うちいり)” の例文
原来彼の黄金丸は、われのみならずかしこくも、大王までを仇敵かたきねらふて、かれ足痍あしのきずいえなば、この山に討入うちいりて、大王をたおさんと計る由。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
その前夜、東京に夜間の焼夷弾しょういだんの大空襲があって、丸山君は、忠臣蔵の討入うちいりのような、ものものしい刺子さしこの火事場装束で、私を誘いにやって来た。
酒の追憶 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「それが、そんな話がないばかりか、討入うちいりの日取りまで極ったというので、吃驚びっくりして腰を抜かしたんだろうよ」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
そのくずれが豊国へ入って、大廻りに舞台がかわると上野の見晴みはらし勢揃せいぞろいというのだ、それから二にん三人ずつ別れ別れに大門へ討入うちいりで、格子さきで胄首かぶとと見ると名乗なのりを上げた。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
曾我そが討入うちいりがある。五郎も十郎も頼朝よりとももみな平等に菊の着物を着ている。ただし顔や手足はことごとく木彫りである。その次は雪が降っている。若い女がしゃくを起こしている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俺は、下郎にちがい無いんだから——然し、今夜は、討入うちいりだ。討入ったなら、下郎の俺は、士分の人のように、武芸は上手でないし、一番に、やられると、覚悟しなくてはならん。
寺坂吉右衛門の逃亡 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
こゝ播州ばんしう赤穗あかほ城主じやうしゆ淺野内匠頭殿あさのたくみのかみどの家臣かしん大石内藏助おほいしくらのすけはじ忠義ちうぎ面々めん/\元祿げんろく十五年十二月十四日吉良上野介殿きらかうずけのすけどのやしき討入うちいりきはまり同月十日に大石内藏助は小山田庄左衞門をやまだしやうざゑもんまね同志どうし人々ひと/″\家内かない
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それでかたわらから父の打つのを聞いていると、その心意気があたかも敵陣へ突き進む時の決意を示すように響いて来るのである。家族のものがそれを「まるで忠臣蔵の討入うちいりですね」といって笑った。
討入うちいり
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おしお、もう何にも言ってくれるな」と、小平太は相手の顔を見ぬように、目眩まぶしそうに眼をそらしながら言った。「わしは、わしは討入うちいりの数にれたのだ!」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)