角々かどかど)” の例文
車がようやく池の端に出ると葉子は右、左、と細い道筋の角々かどかどでさしずした。そして岩崎いわさきの屋敷裏にあたる小さな横町の曲がりかどで車を乗り捨てた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
海と空が、一瞬ごとに、白々と二つのものにわかれて来て、やがて、真っ赤な太陽の放射が、海を走り、石垣を染め、樹々にかがやき、城の屋根の角々かどかど燦々きらきら光った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全力を集中した技巧に過ぎない。すべてレトリック、すべて外形的。彼の情熱は緩き音楽の調子によって動き、角々かどかどのきまりとなり、永く引き伸ばしたことばに終わる。
エレオノラ・デュウゼ (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
おとよさんは十九だというけれど、勝気な女だからどう見たって二十前の女とは見えない。女としてはからだがたくまし過ぎるけれど、さりとて決して角々かどかどしいわけではない。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
両手は、母親がかつて推察したとおり「凍傷にくずれて」いた。その時ちょうど彼女を照らしていた火のために、骨立った角々かどかどが浮き出して、やせてるのが特に目立っていた。
かんなをかけては削り、のみを使って繊細なる技巧をもって角々かどかどの組み合せをなし、懸命なる努力を続けておりましたが、今回は、いわんや木函は前回の七倍八倍に達する容量を要し
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
鉄砲でやられているのと、盛んな蜚語ひごが飛んで、人々は上を下へと、よろこんだり青くなったり、そのなかを市中は、菰樽こもだるのかがみをぬいて、角々かどかどでの大盤振舞おおばんぶるまいなのだから(前章参照)
一方は諏訪町、駒形方面から、一方は門跡から犇々ひしひしと火の手が攻めかけて来るのだが、その間は横丁の角々かどかどは元よりいたる処荷物の山で、我も我もと持ち運んだ物が堆高うずたかくなっている。
本糸目というと、即ち骨のかさなった所及び角々かどかど全部へ糸目をつけたものである。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
草間六弥はって奥の一と間へ導き入れます。四十五六の少しふとった男で、髪形も着物の好みも、すっかり町人風ですが、物を言わせるとまだどこかに、武士らしい角々かどかどが残っております。
外国語学校に通学していた頃、神田の町の角々かどかどに、『読売新聞』紙上に『金色夜叉こんじきやしゃ』が連載せられるという予告が貼出はりだされていたのを見たがしかしわたくしはその当時にはこれを読まなかった。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
型はくずれていないけれども角々かどかどのややり切れた茶の背広服、たびたび水を潜ったものらしく黄色くなった富士絹のワイシャツ、しま模様の消えかかった絹の靴下、等々を身に着けているところは
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
君を負ふ人の後蹤あとつきのぼる道石ころ暑し赤き角々かどかど
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まず第一に田川夫人のほうに目をやってそっと挨拶あいさつすると、今までの角々かどかどしい目にもさすがに申しわけほどのみを見せて、夫人が何かいおうとした瞬間
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
色白の柔和な顔立ち、ちょっと微笑すると、若い娘のような可愛らしい顔になりますが、性根はなかなかしっかりものらしく、言葉の角々かどかどもはっきりして、大家の主人らしさに申分もありません。