被官ひかん)” の例文
今一人の柄本家の被官ひかん天草平九郎というものは、主の退くちを守って、半弓をもって目にかかる敵を射ていたが、その場で討死した。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この駿河の一被官ひかん、松下屋敷から眺めていると、三河の松平を除いては、国の貧乏も、領土の狭さもどこの国よりみじめに見えた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が、祖先の地、岡崎へ帰ってみると、自分の城の本丸には、今川家の山田新右衛門やまだしんえもんなどという被官ひかんが、城代として居すわっているのだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明石景親あかしかげちかは、宇喜多うきた家の被官ひかんで、八幡山の城をかため、たとえ三木城はおとし得ても、次の大敵たることはいうまでもない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毛利家の被官ひかん、清水長左衛門宗治むねはるが、わずか五千の士卒や農兵と共に、餓死がししてもと、死守している敵城なのであった。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが縁となって黒田宗円は以後、小寺家の被官ひかんとして仕え、やがてまた、その子官兵衛が、父に代って、家老の要職を継ぐようになったのであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野望の謀反むほんや悪行のすえ亡んだ主家はぜひもないが、その下に使われていた被官ひかんや家来の小領地は、どしどし、元の所有者へ返してやれと、尊氏はいう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳴海城は、清洲をめぐる衛星の一つであった。織田家の出城でじろなのである。彼の父、山淵左馬介義遠やまぶちさまのすけよしとおは、信長の被官ひかんの一人で、その城を預かっている者だった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それまでの謙信は、あらためていうまでもなく、管領の一被官ひかんで、姓は長尾、職は越後の守護代しゅごだいであった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老木に花が咲いたように、五十三歳のむこ殿は、国中の被官ひかんを連日招いて、披露の祝宴に満悦を見せていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さればよ、官兵衛どのに、その忠義などを、求めるのが無理であろうよ。われわれ譜代ふだいの臣とはちがい、つい父の代からご当家に縁故をむすんだご被官ひかんに過ぎぬ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい。足利ノ庄の内には、世々、八条院の御旧領があり、それが今上きんじょうの御料に移されておりますゆえ、おそれあれど、申さばわが家は、朝廷の一被官ひかんでもござりまする」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
播州ばんしゅうの一勢力家の下風にある一被官ひかんの子にすぎないが、姫路の小城一つを擁して、早くから大志を抱き——しかも時勢の帰趨きすうを見ぬいて——中国にありながらただ一人
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まして当城は旧来から毛利家の被官ひかんとしてこの地方を領して来たお家柄でもある。なに迷うことがあろう。どんな質子でも誓紙せいしでも入れて、その代りに、ご助勢を仰げばよい
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なるほど、宇喜多が妥協すれば、その被官ひかん、明石景親も、てもなく屈服して来ようし……景親がわれに降れば、宇喜多もたちまち和を乞うであろう。これは同時に運ぶが妙だ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持萩もちはぎ中納言の息女むすめであったとか、彼はやぶ中納言保広やすひろ落胤おとしごであるとか、織田被官ひかんの足軽から帰農した百姓弥右衛門やえもんの子というのがまことであるとか、噂や蔭口もまちまちであったが
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飯尾豊前ぶぜんも、彼と同じ今川家の被官ひかんなので、この地方の民治警備には、たえず連絡をもち、また、四隣の国、——徳川とくがわ織田おだ武田たけだなどの侵略にも、常に備えなければならなかった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、おぬしへいっているのではない。大納言具教とものりの眼からすれば、斯波しば家の一被官ひかん、織田家のごとき、また、その一家人にすぎぬ滝川一益かずますのごとき、相手にとるも、けがれというだろう」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松下嘉兵衛かへえなどは、義元直参じきさん旗下はたもととはちがい、地侍の被官ひかんだったが、それでも、日吉の知っている清洲きよすや、那古屋なごやや、岡崎あたりの邸とは、比較にならぬ程、どこか豊かだし、客足も多く
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)