蜘蛛ぐも)” の例文
ありの性急な活動を、歩きながら踊ってるように見える足長蜘蛛ぐもを、横っ飛びにね回るいなごを、重々しいしかもせかせかした甲虫かぶとむし
燭台の灯火が大きく揺れ、壁上の陰影かげがその瞬間大蜘蛛ぐもの形を描き出したのは、月子の貪慾どんよくな心願を映し出したとも云われるのである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは毛のはえたまっ黒な恐ろしい大蜘蛛ぐもであった。妹は彼がこう言うのを聞いた。「かわいそうなものだ! それも彼自身の罪ではない。」
須井栄之助は「結構ですね」と答えながら、えいと叫んで片手を振り、眼の前に飛んでいる蠅をあっさりつかんだ、蠅捕り蜘蛛ぐものような男である。
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
紅の糸、緑の糸、黄の糸、紫の糸はほつれ、千切ちぎれ、解け、もつれてつち蜘蛛ぐもの張る網の如くにシャロットの女の顔に、手に、袖に、長き髪毛にまつわる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
七匹の青蜘蛛ぐもが張りわたしている絃を掻き鳴らし始めると、二人のお爺さんは、睡蓮の花を静かに左や右に揺り、いっぱいに咲きこぼれている花々のずいからは
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それからね、そのとんぼは、おこって大蜘蛛ぐものやつにくいかかりました。くいつかれた大蜘蛛ぐもは、いたい! いたい! 助けてくれってね、大声にさけんだのですよ。
赤とんぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その絶えんとして、又続く快い旋律が、目に見えない紫の糸となって、信一郎の心に、後から後から投げられた。それは美しい女郎蜘蛛ぐもの吐き出す糸のように、蠱惑こわく的に彼の心をとらえた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ポリーナ 相手が女優さんだと、いつだって平蜘蛛ぐもみたい。いつだってね!
たとえば大きな、蒼白い人間の顔を持った大蜘蛛ぐもが、その背後の大暖炉の中からタッタ今、私を餌食えさにすべく、モーニングコートを着てい出して来たような感じに変ってしまったのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まことに敬畏けいいする態度で、私は、この手紙一本きりで、あなたから逃げ出す。めくら蜘蛛ぐも、願わくば、小雀こすずめに対して、寛大であられんことを。勿論お作は、誰よりも熱心に愛読します心算つもり、もう一言。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
タラント蜘蛛ぐもまれたんだな。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
蠅とり蜘蛛ぐもは三段飛。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
熱帯蜘蛛ぐもの大きな網が到る所にかかっている。床には塵埃ほこりが積もっている。そして木椅子や卓子が五人前ちゃんと揃っている。室は二つに仕切られてあった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
音もなく飛び回る蝙蝠こうもり、また、古い家の内部に動めいてるのがよくわかる恐ろしい怪物、大きなねずみや毛のえた大蜘蛛ぐもなど、それから、何を言ってるのか自分でもよくわからない
女王蜘蛛ぐも
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かがんで拾う布売りの姿があたかも大蜘蛛ぐもの這ったように、地面に影を描き出したが、さっと吹いて来た夜嵐に桜の花がサラサラと散り、その影をさえ埋めようとする。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)