蒼白あおざ)” の例文
突然レムブルグが悲鳴をあげて廊下に飛出す、米良はバルコニに駈け上るとれた空気に蒼白あおざめた闘争にやつれた同志の死体が沈むのを見た。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
道之進は黙って頼母の眼を見上げた……蒼白あおざめた顔に、剃刀のような双眸が鋭い光を放っていた。彼は静かに座を滑ると
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
綺麗にならされた桐胴きりどうの火鉢の白い灰が、底冷えのきびしい明け方ちかくの夜気に蒼白あおざめて、酒のさめかけた二人の顔には、深い疲労と、興奮の色が見えていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、顔色は少し蒼白あおざめてきた。一人が、池上の右手をとって、上へ引いて、膝頭を片脚で蹴りながら
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
恩人の顔は蒼白あおざめたり。そのほおけたり。その髪は乱れたり。乱れたる髪! その夕べの乱れたる髪は活溌溌かつはつはつ鉄拐てっかを表わせしに、今はその憔悴しょうすいを増すのみなりけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
声は少しさびのある高調子で、なまりのない東京弁だった。かなり、辛辣しんらつな取調べに対して、色は蒼白あおざめながらも、割合に冷静に、平気らしく答弁するのが、また、署長を苛立いらだたせた。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
兵馬は急に酔で蒼白あおざめた顔を伏せたが、——そうかといってべつに驚いたようすもないので、佐兵衛はいぶかしそうに
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
主婦あるじは上って行くお庄の顔を見ると、言い出した。蒼白あおざめたような頬に、薄いびんの髪がひっついたようになって、主婦あるじは今起きたばかりのだるい体をして、莨をっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
はじめ判事らが出廷せしとき、白糸はしずかにおもてげて渠らを見遣みやりつつ、おくせる気色けしきもあらざりしが、最後に顕われたりし検事代理を見るやいなや、渠は色蒼白あおざめておののきぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少し、蒼白あおざめた顔をして、上背のある荒木が、長い、厚い刀を構えていた。半兵衛より、ずっと高くて、がっしりしていた。羽織もなく、鎖鉢巻をして、十分に、軽い身なりであった。
寛永武道鑑 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
お宇多の顔は蒼白あおざめ、その唇はひきつるように片方へゆがんでいた。それは、どうかして勝とうとする心をそのまま絵にしたような、烈しい執念の相であった。
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
深雪は、はっきりした口調であったが、顔が、少し、蒼白あおざめていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
房吉は蒼白あおざめた顔をして、涙含なみだぐんでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この有様に四名の者は思わずさっと退く、孰れも面色蒼白あおざめ、呼吸も構えも乱れて来た。
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
妻は、薄く涙をためて、蒼白あおざめた顔になっていた。吉右衛門は
寺坂吉右衛門の逃亡 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼は脱った笠を左手に持つと、蒼白あおざめた顔に、両眼を熱く光らせながら進み寄った。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
綱手が、少し蒼白あおざめた顔で聞いた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
平之助は蒼白あおざめた顔で着替えをしていた。主計は近寄っていって肩を押えた。
主計は忙しい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は死人のように蒼白あおざめ、狂人のように眼を血走らせ、奔馬のように鼻嵐を吹いていた、「先手を打たれました、すっからかんです」彼は苦しそうにあえいで水をくださいと悲鳴をあげた。
「おわかりあそばしませぬか」宗利は自分の顔が蒼白あおざめてゆくのを感じた。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は見る見る蒼白あおざめてそうつぶやき、じっと瞑目した。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それで——」と蒼白あおざめた面をあげた
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
辰之助は蒼白あおざめた額を垂れたまま
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)