えふ)” の例文
「若しか、——若しか、御主人は谷中三崎町の、おえふといふ女を御存じありませんか、——要屋かなめやとかいふ小料理の看板を上げてゐる」
懐中には外務大臣子爵青木周蔵、子爵夫人エリサベツトの名をしよしたる一えふの夜会招待券を後生大事と風呂敷に包みて入れたり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕が毎日の様にくのはリユクサンブル公園と、其処そこの美術館とだ。一えふをも着けない冬がれの、黒ずんだ幹の行儀よく並んだ橡樹マロニエの蔭を朝踏む気持は身がしまる様だ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いつまで生きてていつ死ぬか解らない程、不安な淋しいことはないと、おえふは考へたのである。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
えふふね形容かたどつたり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
えふ輕く棹さして
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
「養子の柳吉を贔屓ひいきにして居るのは、娘のおえふ位のもので御座います、許婚いひなづけの仲ではあるが、あれは妙に氣が合ふ樣子で」
五六丈の幹の上に芭蕉に似た葉を扇形あふぎがたに三十五六えふも並べて直立して居る扇椰子あふぎやし、滴る様な血紅色けつこうしよくをした椰子竹やしちくの一種、紅蜀葵こうしよくきの様な花を榎の様な大木に一ぱい附けて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その養子——行く/\は娘のおえふ婿むこになるのは、手代の喜三郎だつたことは言ふまでもありません。
若旦那は取引先の義理で近頃この家に入つた養子ですが、私は白雲頭しらくもあたまからの奉公人で、お孃さんのおえふさんとは主從とは言つてもをさ馴染なじみも同樣、自然親しくも口をきいて居ります。
「鈴川主水、良い男で、藝も達者だつたから、女には騷がれた、——あのおえふも講中の一人さ、——踊の上手で、その頃柳原の藝子だつたお葉が、押しかけ女房見たいに入り込んで女房になつた」
後ろからおえふが口を出しました。大分躊躇ためらつた樣子です。