茘枝れいし)” の例文
あの赤黄いろい、ぎざぎざした形からわが国の物らしくは見えず南国の産らしい。母はとてもその茘枝れいしの料理が好きであつた。
あけび (新字旧仮名) / 片山広子(著)
しかし茘枝れいしに似た細君や胡瓜きゅうりに似た子どもを左右にしながら、安楽椅子いすにすわっているところはほとんど幸福そのものです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宝素が友人の妻のために、遠く摂州の慈姑を生致せいちしたのは、伝ふべき佳話である。嶺南の茘枝れいしは帝王の驕奢を語り、摂州の慈姑は友朋の情誼を語る。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
宿舍としてあてがはれた家の入口に、珍しく茘枝れいしの蔓がからみ實が熟してはぜてゐる。裏にはレモンの花が匂ふ。
香雲の弟子になつて、文人畫の眞似事が出來るので、寺へ歸つて來た時、襖へ筍を描いたり、茘枝れいしを描いたり、それに小生意氣な自贊をして行つたりした。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
冷酒れいしゆ茘枝れいし間違まちがへたんですが……そんならはじめから冷酒ひやざけなら冷酒ひやざけつてくれればいのにと家内中うちぢうものみなつてる。またその女中ぢよちうが「けいらん五、」と或時あるときつた。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
呉の福建は、茘枝れいしと龍眼の優品を産し、温州うんしゅう柑子こうじ蜜柑みかん)の美味天下に有名である。魏王の令旨とあって、呉では温州柑子四十荷を、はるばる人夫に担わせて都へ送った。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父には五つの歳に別れまして、母と祖母ばばとの手で育てられ、一反ばかりの広い屋敷に、山茶花さざんかもあり百日紅さるすべりもあり、黄金色の茘枝れいしの実が袖垣そでがきに下っていたのは今も眼の先にちらつきます。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
羊歯しだ類、蘭類、サボテン類などをはじめとして種々な草木をえ込んで、内部を熱帯地にぞらえ、中でバナナも稔ればパインアップルも稔り、マンゴー、パパ〔イ〕ヤ、茘枝れいし、竜眼など無論の事
茘枝れいしをいためて煮つけたのも甘くほろにがく、やはらかく、そしてもつとふくざつな味で、多少中国料理の感じでもあつた。
あけび (新字旧仮名) / 片山広子(著)
宿舎としてあてがわれた家の入口に、珍しく茘枝れいしの蔓がからみ実が熟してはぜている。裏にはレモンの花が匂う。
隠元いんげん藤豆ふぢまめたで茘枝れいし唐辛たうがらし、所帯のたしのゝしりたまひそ、苗売の若衆一々名に花を添へていふにこそ、北海道の花茘枝、鷹の爪の唐辛、千成せんなりの酸漿ほうづき、蔓なし隠元、よしあしの大蓼
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかし茘枝れいしに似た細君や胡瓜に似た子供を左右にしながら、安楽椅子に坐つてゐる所は殆ど幸福そのものです。僕は時々裁判官のペツプや医者のチヤツクにつれられてゲエル家の晩餐へ出かけました。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私が大森に住むやうになつてからも時々こしらへたけれど、家の人たちがにがい物を好まないやうで、私ひとりが食べた。この何年にも、どこの垣根にも茘枝れいしの生つてゐるのを見たことがない。
あけび (新字旧仮名) / 片山広子(著)