苟安こうあん)” の例文
その奉行は都尉苟安こうあんという男だったが、酒好きのため、途中でだいぶ遊興に日を怠り、日限を十日余りも遅れてやっと祁山きざんに着いた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが一般に認識はややともすれば懶惰で苟安こうあんに走る性質を持つから、そうした懶惰な認識に仮睡を与えることが道義的感触の役目となる。
現代日本の思想対立 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
唯目前の苟安こうあんを謀るのみ、戰の一字を恐れ、政府の本務を墜しなば、商法支配所と申すものにて更に政府には非ざる也。
遺訓 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
政治界でも実業界でも爺さんでなければ夜も日も明けない老人万能で、眼前の安楽や一日の苟安こうあんを貪る事無ことなかれ主義に腰を叩いて死慾しによくばかりかわいている。
「一日の苟安こうあんは、数百年の大患なり、いたずら姑息こそく以て処せば、その我を軽侮するもの、に独り露人のみならん。四方の外夷がいい、我に意あるもの、くびすを接して起らん」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ユーモアを虐待することと、人格者であるといふことと、平和と苟安こうあんとは同義で通用する日本の、そして帝都は彼の育つた雰囲気であつた。かかる時自我崇拝主義は微笑んだ——。
夭折した富永太郎 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
天下枢機の地に立つ者が平安朝ほど惰弱苟安こうあんで下らない事をしてゐたことは無い位だ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ほかに対しては卑屈これ事とし、国家の恥辱ちじょくして、ひとえに一時の栄華をてらい、百年のうれいをのこして、ただ一身の苟安こうあんこいねがうに汲々きゅうきゅうたる有様を見ては、いとど感情にのみはしるのくせある妾は
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
〔譯〕獨得どくとくけんわたくしに似る、人其の驟至しうしおどろく。平凡へいぼんは公に似る、世其の狃聞ぢうぶんに安んず。凡そ人の言をくは、宜しく虚懷きよくわいにして之をむかふべし。狃聞ぢうぶん苟安こうあんすることなくんば可なり。
苟安こうあんの身はすぐ断刑の武士たちへ渡された。長史楊儀ようぎは、彼が斬られることになったと聞いて、大急ぎで孔明のところへ来て諫めた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
如何に彼が大奥の援引えんいんによりてその位を固うしたるにせよ、如何に彼が苟安こうあん偸取とうしゅしたるのそしりは免るべからざるにせよ、如何に因循いんじゅん姑息こそくの風を馴致じゅんちし、また馴致じゅんちせられ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
苟安こうあんは間もなく姿をかえて、蜀の成都へ入り込んだ。そして都中に諜報機関の巣をつくり、莫大な金をつかって、ひたすら流言蜚語ひごを放つことを任務としていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
速かに寛永打払うちはらい令の旧に復せば、また何ぞ黒船のうれいあらんやと。外事に聵々かいかいとして、一日の苟安こうあん偸取とうしゅせんとする幕府は、ここにおいて異国船を二念なく打払うの令を布けり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)