色子いろこ)” の例文
「身振りなんかしたつて、お前ぢや色若衆には見えないよ。そんなのは大方芝居の色子いろこのヒネたのか、蔭間かげまの大年増が道に迷つたんだらう」
色子いろこや、役者衆は、みんなこういう物を、額にあてております。私ばかりではございません。お目ざわりになりましたら、どうかお勘弁を』
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元より、歌舞伎役者の常として、色子いろことして舞台を踏んだ十二三の頃から、数多くの色々の色情生活をけみしている。四十を越えた今日までには幾十人の女を知ったか分らない。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あるひは楽屋稲荷町いなりまちの混雑、中二階ちゅうにかい女形部屋おんながたへやてい、また欞子窓れんじまど縄暖簾なわのれんげたる怪しき入口に五井屋ごいやしるして大振袖おおふりそで駒下駄こまげた色子いろこ過ぎ行くさまを描きしは蔭間茶屋かげまぢゃやなるべきか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さては、ひとを河原者、色子いろこあがり同然とあなどって、婦女子の、もてあそびもの、つれづれのとぎとして、みだらなことを、させようとしむけるのだな。しかも、相手は恨み重なる土部三斎の娘——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
このよし原が浅草田圃たんぼに移され、新吉原となってからでも、享楽地としては人形町通りを境にして親父橋りに、葭町、堺町、葺屋ふきや町側に三座のやぐらがあり、かげま茶屋、色子いろこ比丘尼びくに繁昌はんじょうした。
蔭間茶屋かげまぢゃや色子いろこ野郎やろう)風俗だの売女のりが、良家の子女にまで真似られて、大奥や柳沢閥の華奢かしゃをさえ、色彩のうすいものにした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
米吉は坊主禿かむろから成人して色子いろこになりお染の薄墨太夫に拾はれて、その間夫まぶになつたのさ。商賣女のいか物喰ひだよ。
そこではまた、きれいな舞妓まいこ色子いろこたちが、団扇うちわの風を送るやら、吹井ふきいの水で手拭てぬぐいを冷やしてくるやら、女が女をとり巻いて、何しろ大したもて方である。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなわけぢやありませんがね、主人の鈴川主水のいふことには——良い男ばかり集つてゐると陰間宿かげまやどだの、色子いろこ女衒ぜげんだのと、世間の噂がうるさくて叶はない。
「オオ……。万字屋の色子いろこだといつわって、おれたちに大傷を負わせ、この女を、助けて逃げた娘の母親……」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先代の薄墨華魁が死んだ後は、何んでも色子いろこになつたとか妙な噂もありましたが、吾妻屋さんに身請された二代目の薄墨華魁が見つけて來て、大層世話をしてをりました。
「おい、おめえは、蔭間屋かげまや色子いろこじゃねえのか。身装みなりで分らあ、蔭間だろう、おめえは」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取つかへ、引つかへ、綺麗な子方こがたや芝居の色子いろこを飼つて置くさうですよ。佐野松だつて、世間體は弟といふことになつてゐるが、あれも能役者上がりで、何んだかわかつたものぢやありません。
どこかしらのお大尽だいじんが、京の芸妓げいこ色子いろこをこぞッて、琵琶湖びわこへ涼みに出かけるのだろう。いやいや、お大尽様というものは昔から男のものに限っている、あの駕の中に納まっているのは女じゃないか。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁字風呂ちょうじぶろの裏門から、すっと中に消え込む十八、九の色子いろこがある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)