舵手だしゅ)” の例文
前方の一段高い上甲板には、定めし舵手だしゅ徹宵てっしょうの見張りを続けているのでしょうが、今人見廣介の立っている所からはそれも見えません。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二、労働賃銀増額、——水火夫、舵手だしゅ、大工ら下級船員全体に対して、月支給額の二割を左の方法によって増給すること。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
学生時代には柔道もやり、またボートの選手で、それが舵手だしゅであったということに意義があるように思われる。
工学博士末広恭二君 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
がっかりすると言うより、ぼんやりして、海を見ていると、舵手だしゅの清さんがやって来て、かたたたきます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
文科の整調の窪田は農科の舵手だしゅの高崎と同じ中学を出て同じく一高に入った親友であった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
実業家マルタン氏が舵手だしゅだったが、氏は非凡ひぼんなうでをあらわして、波をうまくのり切った。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
風は順風じゅんぷう舵手だしゅは名手、帆は風をはらんでボートは矢のようにすすんだ。またたくまに平和湖に到着した。このとき、風はまったく死にたえて、帆の力をかりることができない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
舵手だしゅに令する航海長の声のほかには、ただ煙突のけぶりのふつふつとして白く月にみなぎり、螺旋スクルーの波をかき、大いなる心臓のうつがごとく小止おやみなき機関の響きの艦内に満てるのみ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
と突如、とも舵手だしゅや帆綱番の上へどなった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
9 舵手だしゅ——一心に舵輪を廻している。
氷れる花嫁 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
舵手だしゅの小倉は、船首を風位から変えないように、そのあらゆる努力を傾注していた。彼の目はコンパスと、船の行方ゆくえとを、機械的に注視していた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
甲板には舵手だしゅ一人っきりしかいないんだ。それにね、うまいことがあるんだよ。ボートが船尾ともにつなぎっぱなしになっているんだ。オールもちゃんとついている。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
最後の五百メエトルに日本選手は渾身こんしんの勇をふるって、ピッチを四十に上げ、見る見る中に伊太利へ追い着くと見え伊太利の舵手だしゅガゼッチも大喝だいかつ一声、漕手をはげまし
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そして漕いだ経験は十分だが身体からだがないので舵手だしゅになっていた小林を説きつけて、やむを得ず五番にまわした。舵手の代りなら、少し頭脳さえよくて、短艇の経験がちょっとあれば誰れにでも出来る。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
翌朝、眼の覚めたときは、もう十時過ぎでしたろう。まくらもとの障子しょうじ一面に、赫々あかあかと陽がさしています。「ああ、気持よい」と手足をのばした途端とたんふすまごしに、舵手だしゅの清さんと、母の声がします。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
宇野うの(捺印した舵手だしゅ)、小倉、貴様らも同意した、捺印したんだな。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)