自我じが)” の例文
同時に「自我じが」といふものが少しづゝ侵略しんりやくされてくやうに思はれた。これは最初のあひだで、少時しばらくつとまたべつに他の煩悶が起つた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
なぜならその美しさを保障するものは名工の「自我じが」ではなく、自然の「大我だいが」だからである。「有想うそう」ではなく「無想むそう」だからである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
弱気でしかも自我じがの強いために自分自身も不幸になり、他人をも不幸にさせたところのアドルフの運命はまた、私の運命さながらに思えたからだ。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
悠久ゆうきゅうなる天地の間にいかに自己が小なものかということを強く強く考えて見たまえ。卑俗ひぞくな欲望にあせって自我じが執着しゅうちゃくするのが馬鹿らしくなってくるよ。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
勿論白がいや白くなれば、鼠色ねずみいろ純黒まっくろいきおいなる様なもので、故先生があまりに物的ぶってき自我じがを捨てようとせられた為
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かみもうしますのは、人間にんげんがまだ地上ちじょううまれなかった時代じだいからのもと生神いきがみ、つまりあなたがたっしゃる『自我じが本体ほんたいまた高級こうきゅうの『自然霊しぜんれい』なのでございます。
かういふやうに広狭くわうけふ種々の socialゾチアル繋累的けいるゐてき思想が、次第もなくむらがり起つて来るが、それがとうとう individuellインヂヰヅエル自我じがの上に帰着してしまふ。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いまこそは何人なんぴとでもあれ、自我じが名利みょうりをすて、のため、あわれな民衆みんしゅうのために、野心やしんの群雄とならず、領土慾りょうどよくに割拠しない、まことの武士もののふがあらわれなければならないときだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
民藝の美には無我むが的な超個人的な美が示されるが、個人的作には自我じがはびこり意識が多く、したがって作為が勝ち、自然さにそむく故美が乏しくなってくるのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)