臆説おくせつ)” の例文
要するに臆説おくせつ紛々ふんぷんとしていずれが真相やら判定し難いがここに全然意外な方面に疑いをかけようとする有力な一説があって曰く
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
臆説おくせつをも初めから排する事なく、なるべくちがったものをことごとくひとまず取り入れて、すべての可能性を一つ一つ吟味しなければならない。
いずれにしても二人が死んだ後、お由殺しの事件の捜索は即刻打切られてしまったので、これ等はただ苦労性の人々の臆説おくせつにすぎないのである。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかるに物かわり時移るに従ひ、この記念的俳句はその記念の意味を忘られて、かへつて芭蕉集中第一の佳句と誤解せらるるに至り、つい臆説おくせつ百出
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「狐狸の仕業であろう?」「いや黒鍬の者の悪戯わるさではないか」などという取沙汰はまだしもの方で、そのうちに誰が言い出したことか、紛々ふんぷんたる臆説おくせつを排して
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてクリストフが情熱に駆られて、おのれの思想の埒外らちがいにまで飛び出し、とてつもない臆説おくせつを吐いて、相手を怒号させるようになると、彼は無上に面白がっていた。
不幸にして強制徴兵案の様に自分の想像を事実の上で直接たしかめてれる程の鮮やかな現象が、仏蘭西フランスではまだ起つてゐないから、自分は自分の臆説おくせつをさう手際てぎはよく実際に証明するわけに行かない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
街の角々には黒縁くろぶち取りたる張紙はりがみに、この訃音ふいんを書きたるありて、その下には人の山をなしたり。新聞号外には、王の屍見出だしつるをりの模様に、さまざまの臆説おくせつ附けて売るを、人々争ひて買ふ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
終日一室に籠居ろうきょしてかつて人前に出でざりしかば、親しき親族門弟といえどもその相貌をうかがい知り難く、めに種々なる風聞臆説おくせつを生むに至りぬ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さまざまの臆説おくせつが唱えられて居るようでありまして、中には、これは科学者に共通な悪運が廻って来たものだと申し、或る者は殺人魔の跳梁ちょうりょうであると申し
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
などと臆説おくせつする声さえ一時あったが、秀吉はほとんど無頓着で、翌二十五日は、もう加賀へ向っていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故に儒者の道を学ばむと思はゞ、先づ文字を精出せいだして覚ゆるがよし。次に九経きゅうけいをよく読むべし。漢儒の注解はみないにしえより伝受あり。自分の臆説おくせつをまじへず。故に伝来を守るが儒者第一の仕事なり。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
されば物凄ものすごい相貌の変り方について種々奇怪きかいなる噂が立ち毛髪もうはつ剥落はくらくして左半分が禿げ頭になっていたと云うような風聞も根のない臆説おくせつとのみはいし去るわけには行かない佐助はそれ以来失明したから見ずに済んだでもあろうけれども
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)