背負しょい)” の例文
その巧妙インジニアスな暗号により、只管ひたすらに読者の心を奪って他を顧みるいとまをあらしめず、最後に至ってまんまと背負しょい投を食わす所にある。
「二銭銅貨」を読む (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
背負しょいいまして、片手に薬缶やかんを提げたなりで、夕焼にお前様、影をのびのび長々と、曲った腰も、楽々小屋へ帰りますがの。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は背負しょいごのなかから雲斎織の上ッぱりを出した。風に揉まれてくるくる舞いながら、ながいことかかって襟をかき合せた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
背負しょい太刀、ダン袋、赤い飾毛をなびかせた官軍が五六人、木立をさぐり、藪を分けて鶯谷うぐいすだにの方へ降りて行きます。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
で、元のさやに収った万年屋夫婦は、白と千草の風呂敷包を二人で背負しょい分けてどこへか行ってしまった。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
文久三年亥歳いどしから明治元年まで五、六年のあいだと云うものは、時の政府に対してあたかも首の負債を背負しょいながら、他人に言われず家内にも語らず、自分で自分の身をくるしめて居たのは随分ずいぶん悪い心持でした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「アアアア今度こんだこそは厄介やっかい払いかと思ッたらまた背負しょい込みか」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
勘兵衛殺しの下手人とにらんで、一生懸命証拠の蒐集しゅうしゅうに浮身をやつしている矢先、肝腎の又六が殺されてしまっては、平次は全く背負しょい投げを喰わされたようなものです。
何かしていなければ、それはもう、くずれるような眠さであった。彼は鋸屋の背負しょいごの底をさぐって見た。帳面らしい一包みがあった。その横には、手触りでわか飯籠めしごがあった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
黙って、糸七が挨拶すると、悄然しょんぼりと立った、がきっと胸をめた。その姿に似ず、ゆるく、色めかしく、柔かな、背負しょいあげの紗綾形絞さやがたしぼりの淡紅色ときいろが、ものの打解けたようで可懐なつかしい。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山猫を日向ひなたへ出したような、露天の古道具屋をからかって、抜差しならずに、色付のガラスとも、ソロモン王の王冠のダイヤとも、見当の付かないものを背負しょいこまされたのでしょう。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おくれ毛を、掛けたばかりで、櫛もきちんとささっていましたが、背負しょい上げの結び目が、まだなまなまと血のように片端さがって、踏みしめてすそかばった上前の片褄かたづまが、ずるずると地をいている。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)