肥料こえ)” の例文
しかし、おとこは、もういも肥料こえをやることなどは、まったくわすれてしまったように、てんで田圃たんぼうえなどにとどまりませんでした。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
老夫人と差向いの時に「お日和ひよりがこう続いては麦の肥料こえが利くまいのう」とか、「悪い時に風が出たなあ。非道ひどうならにゃえが」
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
土土用つちどようが過ぎて、肥料こえつけの馬の手綱を執る様になると、もう自づと男羞しい少女心がきざして来て、盆の踊に夜を明すのが何よりも楽しい。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やいや、嘘やない。太政官とこみたいにドツサリ男衆をとこしを置いて、おまけに半ぼんから小作やと、肥料こえから税からかゝりを
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
この君の精神こころをとおし、この殿の将来をとおし、自分の理想は、何らかのかたちで世に行われよう。自分はこの喬木きょうぼくを大ならしめる根もとの肥料こえであっていい。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
島津家が、窮乏の極の時、祠堂しどう金を与えなかったから僧侶が意地の悪い事をしたのである。それを、肥料こえ汲みにまでなって、床下から探し出したのが山田一郎右衛門であった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
隈井さんには聞いてみなければわからないが、外の者全部が作ろうというものを、隈井さん一人で反対はせんに違いない、どうだ、芸者さん、これからは肥料こえ取賃を女に限り倍にするぞ
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
昨日竹敷から歸りに馬車で一緒になつた百姓が肥料こえをすると稻が駄目になるから只作るのみだといふ。技手がついてゝさうなんだから驚く。伊勢蝦を自慢でフライにしてくれたが始めて見た。
対州厳原港にて (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
やうやく肥料こえもした稲を
詩ノート (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
田植刈入に監督を怠らぬのみか、股引に草鞋穿わらぢばきで、みづから田の水見にも廻れば、肥料こえつけの馬の手綱も執る。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分じぶんも、今日きょうあたりいも肥料こえをやるのであったがと、おとこは、左右さゆうまわしながらあるいてゆきました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
になったり、肥料こえをやったり、くわをもって、菜や人参を掘りちらさないでもよかろうじゃないか
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この界隈では市人いちんどと呼んでゐる、山奧から牛の背や荷車に薪や炭を積んで、町へ賣りに出る山男のやうな人々が、太政官の隱居に近い松林の小蔭に荷を卸して、肥料こえ柄杓の頭ほどある橢圓形の面桶めんつう
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)