缶詰かんづめ)” の例文
旧字:罐詰
「大蝶」はその町でいちばん大きく貝の缶詰かんづめ工場を経営してい、漁師たちの採る貝を沖で買い取るために、大蝶丸という船を持っていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「僕は、なにしろ、かに缶詰かんづめで失敗したから、何にもない。洋服が一着あるのだけれど、移転ひっこしの金が足りなかったから、しちに入れてしまった。」
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
するとあとで非常にのどかわいて何かいようなものが欲しくなった処へ桃の缶詰かんづめが出たから僕一人で殆ど半分ほど平らげた。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのうちに目にはいったのは、この円い缶詰かんづめのなかにはいったような部屋の真中についている螺旋階段でした。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
香料こうりょう、紙類、砂糖菓子さとうがし、ハンケチ、襟巻えりまき履物はきもの缶詰かんづめこよみ、小唄集、薬類など、いろんなもののはいってる大きなこり背負せおって、村から村へとわたあるいていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
私は缶詰かんづめくさいマアマレイドをあまり好かないので、買うときは瓶詰びんづめを求めるようにしている。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ちょうど一杯始めていた牧野まきのは、この飲み仲間の顔を見ると、早速手にあった猪口ちょくをさした。田宮はその猪口を貰う前に、襯衣シャツを覗かせたふところから、赤い缶詰かんづめを一つ出した。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
菅野家のじいやが悦子のために間に合せにこしらえてくれた、缶詰かんづめの空缶の底を抜いて両側にガーゼを張った即席の蛍籠で、悦子はそれを大事そうに汽車の中まで持ち込んでいたのであったが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ドライクリーニング、和洋酒缶詰かんづめ、外国煙草屋、ブラザア軒という洋食屋もあったし、蓄音機ちくおんきを聞かせる店やら写真屋やら玉突屋やら、植木の夜店もひらかれていて、軒並に明るい飾り電燈がついて
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
貝殻が缶詰かんづめ工場から運ばれて来ると、二人の事務員があらわれる。一人はその数量を計り、一人は記帳をして、運んで来た者に伝票を渡す。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お春どんが時々見かねて、西宮の市場から天ぷらだの蒲鉾かまぼこだの大和煮やまとに缶詰かんづめだのを買って来てくれることがあったが、そんな時には啓坊もお相伴しょうばんあずかっていた、斎藤先生の運転手にる祝儀なども
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「陸軍で輸卒をしたっけだが、あとは土方をやったり缶詰かんづめ工場に雇われたり、海苔のりのひび運びをしたりしていただ、それが何年めえになるだかな」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)