空咳からせき)” の例文
ああ可愛さうな事をと声たてても泣きたきを、さしも両親ふたおやの機嫌よげなるに言ひいでかねて、けむりにまぎらす烟草たばこ二三服、空咳からせきこんこんとして涙を襦袢じゆばんそでにかくしぬ。
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
無気力でしみったれた笑い声や空咳からせき、「年ごろ」の会話をぎこちなくこねまわしている暗い物置のような詰所で、同じようなくすんだ仏頂面ぶっちょうづらをならべて黙りこくる気分には
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
五十をこしてから空咳からせきがすると云つて寒い時節になると炬燵こたつの中にくぐまつて居た。力のないそれで居て胴中から出る様な咳の音を聞くと、側に居るのが危険であると思はれるのである。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
すると、まずレヴェズの方で、老獪ろうかいそうな空咳からせきを一つしてから切り出した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こういう場合には、こちらに好意があらば、空咳からせきをするとか、生あくびをするとかなんとかして、相当、先方に予備認識を与えて、他意なきことを表明してやる方法を講ずるのが隣人の義務なのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それに、こんな生活とおっしゃるが、今の生活だって、そう特殊なものでもないでしょう? 人間という形態をとって生れて来たという一層特殊な事情に比べればね、と笑いながら、軽い空咳からせきをした。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
父は顏を背向そむけて、「えへん、えへん。」と無理に空咳からせきをした。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
空咳からせきを三ツばかり、小さくして、竹の鞭を袖へ引込め
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小さな空咳からせきが聞こえた。
あゝ可愛かあひさうなことをとこゑたてゝもきたきを、さしも兩親ふたおや機嫌きげんよげなるにいでかねて、けむりにまぎらす烟草たばこ二三ぷく空咳からせきこん/\としてなみだ襦袢じゆばんそでにかくしぬ。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)