さまた)” の例文
純であるから、いろいろなものに邪魔をされずに、又は種々な外皮にさまたげられずに、真直に真に触れて行くことが出来るのである。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
人間の心の底からの純な願いからではなく、悪にさまたげられてのやむをえぬ生活法だからである。人間には互いに働きかけたい心願がある。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そのためにさまたげらるることなくというのは第二に導かれる意味になるのであるから、この歌はやはり、「母にかかわることなく、拘泥こうでいすることなく」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
忽ち水に住む霊怪の陰険な係蹄わなに掛かつたかと思ふやうに、ドルフは両脚の自由をさまたげられた。溺死し掛かつてゐる男が両脚に抱き附いたのである。
これが秀麿の脳髄の中に蟠結はんけつしている暗黒な塊で、秀麿の企てている事業は、この塊にさまたげられて、どうしても発展させるわけにいかないのである。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一時ひとしきり魔鳥まちょうつばさかけりし黒雲は全く凝結ぎょうけつして、一髪いっぱつを動かすべき風だにあらず、気圧は低落して、呼吸の自由をさまたげ、あわれ肩をもおさうるばかりに覚えたりき。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一部は橋のたもとから突出たいわさまたげられてこゝにふちたたえ、余の水は其まゝ押流して、余が立って居る岬角こうかくって、また下手対岸の蒼黒い巌壁がんぺきにぶつかると
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こゝでは深い青黝あをぐろい色をなして、其處此處に小さな渦を卷き/\彼吊橋の下を音もなく流れて來て、一部は橋の袂から突出た巖にさまたげられてこゝに淵を湛へ、餘の水は其まゝ押流して
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
神々に似た己のあゆみさまたげることは出来まい。
けれども僕は東京の事情にさまたげられて列席することが出来ないので、そのことをも僕はひどく寂しくおもつた。法事終へてから家兄が父の小さい手帳を届けて呉れた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
あれは小説家だからともに医学を談ずるには足らないと云い、予が官職を以て相対する人は、他は小説家だから重事をたくするには足らないと云って、暗々裡あんあんりに我進歩をさまた
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
俵はほとんど船室の出入口をも密封したれば、さらぬだに鬱燠うついくたる室内は、空気の流通をさまたげられて、窖廩あなぐらはついに蒸風呂むしぶろとなりぬ。婦女等おんなたち苦悶くもん苦悶くもんを重ねて、人心地ひとごこちを覚えざるもありき。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてその行く道は物体にさまたげられる。
蘭軒は病んではゐたが、其病は書を裁することをさまたぐる程のものではなかつたらしい。前年吟哦ぎんがを絶つてゐた故が不審である如く、此年に不沙汰をした故も亦不審である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そはさながらに、物にさまたげられずして