看客かんかく)” の例文
今もしこれらの図にして精密なる写生の画風を以てしたらんには特殊の時代と特殊の事相じそう及び感情はたちまち看客かんかくの空想を束縛し制限すべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かれら、お沢を押取おっとり込めて、そのなせる事、神職のげんの如し。両手をとりしばり、腰を押して、正面に、看客かんかくにその姿を露呈す。——
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この薄汚いカアキイ服に、銃剣を下げた兵卒のむれは、ほとんど看客かんかくと呼ぶのさえも、皮肉な感じを起させるほど、みじめな看客に違いなかった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いつまでも消えそうもない宿命の姿だけが家々の内部からえぐり出したように見えてくる——劇場のさじきに一人ずつおさまり返っている看客かんかくのように、人生のひもじい堪らない晩には
しゃりこうべ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
とゞろかし末世まつせ奉行のかゞみと成たる明斷めいだんちなみて忠相ぬしが履歴りれきとその勳功くんこう大略あらましとを豫て傳へきゝ異説いせつ天一ばうさへ書記かきしるして看客かんかくらんそなふるなれば看客此一回を熟讀じゆくどくして忠相ぬしが人と成りはらにを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かくて年は暮れたり。画工は正月の松飾まつかざり整ひたる吉原のくるわ看客かんかくを導き、一夜明くれば初春迎ふる色里のにぎわいを見せて、ここにこの絵本を完了す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこには参謀肩章だの、副官のたすきだのが見えるだけでも、一般兵卒の看客かんかく席より、遥かに空気が花やかだった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
のりつけほう。〔備考、この時、看客かんかくあるいは哄笑こうしょうすべし。あえて煩わしとせず。〕(くして、一人一人、枝々より梟の呼び取るほうに、ふわふわとおびき入れらる。)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妻と申立しことなり看客かんかくあやしみ給ふ事なかれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と思うと老人もしっきりなしに鼻紙を出してはしめやかに鼻をかみつづけている。保吉はこう云う光景の前にまず何よりも驚きを感じた。それからまんまと看客かんかくを泣かせた悲劇の作者の満足を感じた。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)