画架がか)” の例文
旧字:畫架
渡しを渡った向岸むこうぎし茶店ちゃみせそばにはこの頃毎日のように街の中心から私をたずねて来る途中、画架がかを立てて少時しばらく河岸かしの写生をしている画学生がいる。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
夜もおそくまで画架がかに向っているらしくく造花屋の主婦は、三階から小用に降りてくる松岡の足音をきいた。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
余のごときは、探偵にの数を勘定かんじょうされる間は、とうてい画家にはなれない。画架がかに向う事は出来る。小手板こていたを握る事は出来る。しかし画工にはなれない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
町も郊外もしばしの間はめずらしく、雨の降らぬ日には、たいてい画架がかをかついで写生に出かけた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼は、肩から画板がばんと絵具箱とをつりさげ、そして右手には画架がかをたたんだものをひっさげていた。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女かのじょがひとりで散歩がてら見つけて来た、或るささやかな渓流けいりゅうのほとりの、蝙蝠傘こうもりがさのように枝を拡げた、一本のもみの木の下に、彼女が画架がかえている間、私はその画架のそばから
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかしわたしは画架がかに向うと、今更のように疲れていることを感じた。北に向いたわたしの部屋には火鉢の一つあるだけだった。わたしは勿論この火鉢に縁のげるほど炭火を起した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただまのあたりに見れば、そこに詩も生き、歌もく。着想を紙に落さぬとも璆鏘きゅうそうおん胸裏きょうりおこる。丹青たんせい画架がかに向って塗抹とまつせんでも五彩ごさい絢爛けんらんおのずから心眼しんがんに映る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)