牢固ろうこ)” の例文
まだまだこの地方にも、平家崇拝と平家恐怖の観念が、大部分の者の頭に、牢固ろうことして抜き難い力を持っているからであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
形式ずくめでまりきったような時もある、悪く小利口な代もある、情慾崇拝の代もある、信仰牢固ろうこの代もある、だらけきったケチな時代もある
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そしてワトソン君、——あとはもうこの問題の解決の、牢固ろうこたる足がかりを得るまでは、何にも云わないことにするよ
これも低い平屋づくりで、本邸と比べては粗末であったが、しかし牢固ろうこという点では、むしろ本邸に勝っていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四人は牢固ろうこたる決意にもかかわらず、一同の悄然しょうぜんとした顔を見ると、さすがに、心のうちしおるるのをおぼえた。だが、しいてさあらぬさまをつくった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
誰が見ても、まさに共産党以上の牢固ろうこさと単純さとがここにあった。しかし、これさえ国家は保護している。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
だが、高台の上に立つ、大きな病院の建物は、牢固ろうこな壁や整った窓が下界の雨をすっかりさえぎっていた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
唐の文化に心酔して、唐びととまであだ名されてゐながら中ノ大兄にはやはり、政治家として先天的に具はつた牢固ろうことして抜くべからざる現実精神があつたのである。……
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
善き宗教、善き道徳、善き精神ありて国は戦争に負けても衰えません。いな、その正反対が事実であります。牢固ろうこたる精神ありて戦敗はかえって善き刺激となりて不幸の民を興します。
チベットへ行くのだという希望だけは牢固ろうことして抜くべからざるものがあった。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この地方に牢固ろうこたる勢力を有している一政党に所属して居るがために優遇され、他はそれに属さないがために冷遇されるということは、かかる種類の問題に於ては絶対に許されざることである。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
数世紀来牢固ろうこたる特性を保有してるフランス民族だった。
領主の力でも抜くことの出来ない地盤と勢力を、牢固ろうことして持っている野武士の頭領かしらとは、考えられない姿であった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
由来この地方は、牢固ろうこたる門徒勢力が錯綜さくそうしていて、家康も手をやき、信長さえも散々手こずった難治の地である。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
専横暴慢なあぶらぎった浄海入道じょうかいにゅうどうという牢固ろうことしてぬき難い先入観の障壁に囲まれているせいも大いにあるでしょう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな人物ならすぐ除けばいいようなものの、かれには牢固ろうこたる勢力がある。無理に抜きとろうとすれば、当然、藩の生命いのち取りになるくらいなものを握っている。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また御諱おんいみなの一字をいただいたなどいう破格な聞えは、いよいよ武士層のあいだに、足利の存在とその実力を牢固ろうこなものに思わせ、いまや六波羅一劃は、大塔ノ宮から見ると
牢固ろうこたる一城がいつのまにかそびえていたというような——不覚をとらんものでもありませぬぞ
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
司馬懿は陣中の迷信に弾圧を加え、厳しく妄言もうげんいましめたが、孔明は一種の神通力を持って、奇蹟を行う者だという考えは牢固ろうことして抜くべからざる一般の通念になってきた傾きすらあった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この小谷の城が、牢固ろうことして、不抜の強味を持っている今までならば格別だが、すでに一の曲輪くるわも、中の曲輪もちて、孤塁落莫こるいらくばくの一城にたて籠って——どう勝目があろうか。死にがいがあるか。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)