牡丹刷毛ぼたんばけ)” の例文
近江訛おうみなまりの蚊帳かや売りや、ものう稽古けいこ三味のが絶えて、ここやかしこ、玉の諸肌もろはだを押し脱ぐ女が、牡丹刷毛ぼたんばけから涼風すずかぜかおらせると、柳隠れにいろは茶屋四十八軒
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その前に伺ひますが、その牡丹刷毛ぼたんばけの持主が、佐野松さん殺しの疑ひでも受けてゐるのでせうか」
お紋は湯道具を鏡の前へ置いて、耳盥みみだらいへ湯を取り、白粉壺おしろいつぼ牡丹刷毛ぼたんばけを取広げながら
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
牡丹刷毛ぼたんばけのかわりの、これはまた見るからに色気のない楕円形だえんけいのスポンジがつるしてある横に、——映画雑誌から切り抜いたらしい美男の外国俳優の写真が貼り付けてあり、たまには
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
師匠と並んだ部屋の、鏡の前にすわって、羽二重はぶたえを貼り、牡丹刷毛ぼたんばけをとり上げる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その者の談話はなしによると、二人は柔かい牡丹刷毛ぼたんばけわきの下をくすぐるやうなお上手ばかり言ひ合つて、一向談話はなしに真実がこもつてゐないので、一ことでもいゝから真実ほんとうの事を言はしいと思つて
姿見に、あらはな肩を映して、彼女は、牡丹刷毛ぼたんばけをふツと吹いた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「おつと、それは逃げ口上だ。廣い江戸の中を、お前の化粧道具の中から牡丹刷毛ぼたんばけつて、縁もゆかりもない、鈴川家の離屋へ、わざ/\捨てに行くものがあるだらうか」
牡丹刷毛ぼたんばけをもって、しきりと顔をはいていたいろは茶屋のおしなは、塗りあげた肌を入れて鏡台を片よせると、そこの出窓をあけて表も見ずに、手斧削ちょうなけずりの細格子ほそごうしの間から鬢盥びんだらいの水をサッといた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猪之松の取出したのは、白粉とあぶらの沁み込んだ使ひ古しの牡丹刷毛ぼたんばけだつたのです。
牡丹刷毛ぼたんばけを持ったおくめの顔が華やかに笑っています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)