煥発かんぱつ)” の例文
白昼の刃影、一時にどよめき渡って、月輪の勢、ジリリ、ジリリとしまると見るや、一気に煥発かんぱつして乱戟らんげきここに泰軒の姿を呑みさった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こうは、好意を謝して、半月ほど逗留とうりゅうしていた。その間に、彼の多芸や才気煥発かんぱつな質を見たものか、ある日、とうが紹介状を書いて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妻の田氏は魏の豪族田氏の一族中から荘子の新進学徒時代にその才気煥発かんぱつなところに打ち込んで嫁入って来たものであった。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
貧乏くさいくせに小意気で、才気煥発かんぱつで、誰にも愛される好青年だった。私は、鈴木青年から、恋物語をきかされたような気がしてならない。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
才気煥発かんぱつではあつたが、怠け者で、腕白で、成績はあまり芳しい方でなく、一高の入学試験に「石鹸の製法を記せ」と云ふ有機化学の問題が出た時
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
連脈の長大と深奥とは、自然の結果として此三者となりて現れ、此三者は相俟あいまって色彩の美を煥発かんぱつする要素であることは、別に多言するまでもない。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
のみならず大友は、父太子・中ノ大兄に似て、明敏な頭脳と煥発かんぱつたる才智とを兼ねそなへた青年だつた。
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
一旦五六岳ごろうだけ辺から胴を波の中に没してしまったが、やがて立山となって首を躍出している、と見るとき、海の底から煥発かんぱつした朱樺色しゅかばいろの火が、一文字をひいて走った。
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
安政五年戊午ぼご 正月、大いに攘夷じょうい論を唱う。閣老掘田正篤まさひろ京都に遊説ゆうぜいす。三月、大詔たいしょう煥発かんぱつ。四月、井伊大老たいろうとなる。六月、勅許ちょっきょたずして、米国条約の調印をなす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「文にも武にも、わが国体の尊厳というものを煥発かんぱつすることを中心にすべき時だ、そのためには庶民の耳に入りやすい宗教なども、これでなかなかお役に立つと思う」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さすがの夫人も、才気煥発かんぱつ、恐ろしい者知らずの美和子には、ややてこずっている気味である。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
兄さんの温厚なのに似ず才気煥発かんぱつした方で、何か失行のあった時、名家の子弟であったためか、新聞に書立てられて、その方を鍾愛しょうあいなさる母上がひどく苦になさった時など
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それはから狻猊さんげいか何かの、黄金色きんだの翠色みどりだのの美しくいろえ造られたものだった。畳に置かれた白々しろじろとした紙の上に、小さな宝玩ほうがんは其の貴い輝きを煥発かんぱつした。女は其前に平伏ひれふしていた。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ムーサ九人ピエルスの九女と競い歌うて勝った時、ヘリコン山歓んで飛び上がるを飛馬が地上へ蹴戻した、蹄の跡より噴泉出でその水を飲む人文才たちまち煥発かんぱつす、その泉を馬泉ヒッポクレネというと。
そして長ずるや馬謖の才能はいよいよ若々しき煥発かんぱつを示し、軍計、兵略、解せざるはなく、孔明門第一の俊才たることは自他ともにゆるす程になってきたので
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも! 土器の油皿、一本燈心とうしんの明りに照らしだされた蒼白い額に観相かんそうに長じている忠相は、非凡の気魂、煥発かんぱつの才、雲のごとくただようものをみたのである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
日本の女の第一の短所は確乎かっこたる自信のない点にある。だから彼等は西洋の女に比べていじけて見える。近代的の美人の資格は、顔だちよりも才気煥発かんぱつな表情と態度とにあるのだ。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これではだめです、まず準法の精神と社会道徳と良心を煥発かんぱつしなければならない。
「攘夷の大詔煥発かんぱつせり、これを奉戴して運動するには、如何なる事を為すべきか」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
智慧伊豆信綱ちえいずのぶつなの血をひいている人だけに、どこか才気煥発かんぱつの風がある。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)