)” の例文
此凄まじい日に照付られて、一滴水も飲まなければ、咽喉のどえるをだま手段てだてなくあまつさえ死人しびとかざ腐付くさりついて此方こちらの体も壊出くずれだしそう。
そつと眺めると砂からは湯気のやうな陽炎がえたつてゐた。それが忽ち乾いて、ジリ/\と反りかへつてゆくかのやうな白い砂原だつた。
熱い砂の上 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
社会のありのまゝの実力を認めて、猶その上に向ふ見ずになる勇気を煽る程の自己の真実に対するえ上る情熱がない。
平塚明子論 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
菅笠のかげの頬は、烈しい作業のせいで火のように紅くえている。その黒くうるんだ眼にも変りがない。ただ、その躰つきだけは見ちがえるようにガツシリとしている。
押しかけ女房 (新字新仮名) / 伊藤永之介(著)
五郎は何となく、向日葵ひまわりの方に歩いていた。向日葵は盛りが過ぎて、花びらが後退し、種子のかたまりが、妊婦の腹のようにせり出している。美しい感じ、えている感じは、もうなくなっていた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
かなしみのゆるに似たりかまつかの濡れてかなしきあけの小さきは
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
清らの泉は太陽の光にえ立つた。
今日の日も陽はゆる、地は睡る
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
宇宙万物の流転の涯しもない煙りが人々の胸にえて怖ろしく佗しい道をたどつて行く原始人の底知れぬ落莫感に起因したといふ話を聞いて
真夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
同時に逸子の頭の中では、彼の冷淡な、おもひやりのない態度に対する怒りが、火のやうに、一時にえ上つて来た。
惑ひ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
えるやうな 消えるやうな
俺は、一見君などからは退屈風に見られる場合だつて、俺の胸のうちには何時も或る種の熱情がえてゐるんだ、驚異が眼を視張つてゐるんだ!
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そうしてえさかる自分の激情の為めにかなりおちつきを失つてゐるらしく思はれました。
今私の胸には、あの主人が凧を追ひかけて行つた時の二つのえた眼だけが烙印になつて残つてゐるのだ。私は、主人の肖像画の後を追ひかけてゐた。
鱗雲 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
マルリツトの位置は忽ちにネクラソフやチエルニシエフスキイによつて奪はれた。そして彼女は自由の為めの戦ひに一生を捧げやうと決心する程の、ゆるやうな熱心家になつた。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
Aは、いまだに、「あれから、これへ」を口吟くちずさみながら、それでも懸命につちを振りあげている。Bは、えあがるほのおの傍らで時はずれにも弁当を喰っている。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
そして其処の大きな卓子テーブルの前の椅子に腰をかけました。瞬間に私は校長からも叱かられるのだと思ひました。此度は私はもう泣きませんでした。私の小さな体は激昂にえてゐました。
孤りの気分は、別段に害はれもしなかつた。彼は、自分の心が何処までも健康らしく、厳しい希望だけにえてゐることを一層はつきり自覚するのが愉快だつた。
山を越えて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
仕事に対する情熱は、形ちなく見えすいてゐる垣の彼方で、徒らに激しくえてゐるばかりだつた。
昔の歌留多 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
天井の隅に、小さい四角なひかりがひとつ、ゆるやうにキラキラと光つてゐた。湯槽ゆぶねの上の明りとりから射し込んだ陽が、反対の壁にかゝつてゐる鏡に当つて、其処に反映してゐるのだつた。
明るく・暗く (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そんな日を送つて私は、無一物になつたので、今度こそは落着いて自分の仕事に取りかゝらうといふ花々しい想ひにえて一先づ村の住居に引き帰したところへ、役場から改まつた通知だつた。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
あの永遠の信念に満ちたかのやうな憧れにゆる校長の姿は、一切の迷妄と不合理と激情と恐怖と、そして人間的禍悪よりの離脱のために——といふプレトン先生の言葉を叫んでゐるかのやうだ。
山彦の街 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)