渡月橋とげつきょう)” の例文
いでやと毛布ケット深くかぶりて、えいさえいさと高城にさしかかれば早や海原うなばらも見ゆるに、ひた走りして、ついに五大堂瑞岩寺ずいがんじ渡月橋とげつきょう等うちめぐりぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大沢の池の堤の上へもちょっと上って見て、大覚寺、清涼寺せいりょうじ、天竜寺の門の前を通って、今年もまた渡月橋とげつきょうの袂へ来た。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
当人も、左様に人様には申しておりましたが、この川の下流のかまふち——いえ、もし、渡月橋とげつきょうで見えます白糸の滝の下の……あれではござりません。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嵐山の渡月橋とげつきょうを渡ると、茶店がズラリと立ち並び、春が人の出盛りだけれども、遊覧バスがここで中食をとることになっているので、とにかく冬も細々と営業している。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
雨上りにも拘らず嵐山には最早もう大分人出がしていた。渡月橋とげつきょうへ差しかゝった時星野さんは
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
天竜寺てんりゅうじの門前を左へ折れれば釈迦堂しゃかどうで右へ曲れば渡月橋とげつきょうである。京は所の名さえ美しい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
京都の嵐山あらしやまの前を流れる大堰川おおいがわには、みやびた渡月橋とげつきょうかかっています。その橋の東詰ひがしづめ臨川寺りんせんじという寺があります。夢窓国師むそうこくしが中興の開山で、開山堂に国師の像が安置してあります。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その後しばらくしてうまいと思って食ったのは、京都の保津川ほづがわのほとりにおいてであった。洛西嵐山の渡月橋とげつきょうを渡って、山の裾を七、八丁登ると、そこに嵐山温泉というのがある。
鮎の試食時代 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
昭和四年四月八日 渡月橋とげつきょうの上手より舟をやとひて遡上そじょう
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
●第三景・嵐山渡月橋とげつきょう
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
去年の花見に嵐山あらしやまへ行った時にも、秋に大阪歌舞伎座へ鏡獅子かがみじしを見に行った時にも、彼は渡月橋とげつきょうの上だの劇場の廊下だので、こんな工合に、妻が不意に涙を落すのを見
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
画家 (おもむろに腕をこまぬく)さあ……あの菊屋と野田屋へ向って渡る渡月橋とげつきょうとか云うのを渡りますと、欄干に、長いさおに、みのを掛けたのが立ててあります。——この大師のいちには、さかんに蓑を売るようです。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
学校が休暇中なので木村さんは体がいているのである。川の縁を散歩し、ボートを出して嵐峡館の辺まで行き、渡月橋とげつきょうのほとりで休憩し、天竜寺てんりゅうじの庭を見る。久しぶりに健康な外気を呼吸する。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)