淫売いんばい)” の例文
旧字:淫賣
お前が淫売いんばいをしたい故、衿に固練かたねり白粉おしろいもつけたい故、美味うまいものもたらふく食べたい故、俺から去って行ったのであろう、俺は今日きょうで三日もえている。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
私みたいな、ええ、私は淫売いんばいよ、それが、どうしたっての、小倉さん、あんたは淫売よりも、一生涯を通じての娼妓しょうぎがお好きな一人ひとりでしょうね、ホホホホ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「ざまア見ろ。淫売いんばいめ。」と冷罵れいばした運転手の声も驟雨の音に打消され、車はたちま行衛ゆくえをくらましてしまった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なんだ? 卑怯者だ?……それは柳沢がいったことか、お前がいったことか。お前なんぞのような高等淫売いんばいを対手に喧嘩けんかをしたかあないんだ。しかし卑怯者というのを
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
恵子についていろいろなうわさが龍介の耳に入った。恵子が淫売いんばいをしているということも聞いた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
無闇むやみに他人の悪口を云って、ハタで見ていて一番鼻ッ摘まみだったのは、一体君は誰だったと思う? 西洋人に淫売いんばいと間違えられて、しかも簡単な英語一つしゃべれないで
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
苗舗びょうほ、菓子屋、下駄屋、大工、小学教師らが各一戸、五戸の憲兵、三戸の百姓、二戸の淫売いんばい屋、それに、駅に勤めている駅長及び駅員の四戸に、鉄道工夫の三、四戸、並びに
はくのついた芸娼妓くろうとに違いないと申すもあるし、えらいのは高等淫売いんばいあがりだろうなどと、はなはだしい沙汰さたをするのがござって、とんと底知れずの池にむ、ぬしと言うもののように、素性すじょうが分らず
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしながら、快楽のための芸術は芸術の淫売いんばいであるとしても、彼はそれにたいして、道徳のための芸術という浅見な功利主義、すきを引いてる翼なき神馬ペガソスを、押し立てはしなかった。
金鵄きんし勲章をいただいた忠勇なる帝国軍人のひとり娘が淫売いんばいになるんだぜ。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ちぇ、なんだい、マネキンは窓の外を男さえ通ればそわそわしているし、陳列棚についたお前さんたちの白粉おしろいの粉が、お前さんたちを淫売いんばいとでもおもわすよ。まあ! あなた。その風態は何よ。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
あの可愛かわいい娘は空襲で死んだかも知れず、淫売いんばいになったかも知れない。
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
淫売いんばい、官憲、サン・ラザール拘禁所、そういう所に、あのうるわしい、たおやかな娘らは、あの五月のライラックの花よりもなおさわやかな貞節と温順と美とのもろい宝は、ついに落ちてゆくのだ。
「何だお前は! おれはじかせたな! ばいた! 淫売いんばい! じごく!」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「大かた下宿屋廻りの淫売いんばいなんだろう?」
「どう見ても高等淫売いんばいとしか見えない」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「ええ、そうよ、まるで淫売いんばいみたいだけれど、………」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)