洞庭どうてい)” の例文
李白は出でて襄漢じょうかんに遊んだ。まず南洞庭どうていに行き、西金陵にしきんりょうよう州に至り、さらに汝海じょかいに客となった。それから帰って雲夢うんぽうに憩った。
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
梁遂りょうすいという人が官命を帯びて西粤せいえつに使いするとき、洞庭どうていを過ぎた。天気晴朗の日で、舟を呼んで渡ると、たちまちに空も水も一面にくらくなった。
この水はすぐそこの銀閣寺の苑内から流れてくる清冽せいれつなので、洞庭どうていのそれよりも清く、赤壁せきへきの月のそれよりも冷たい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかし、三べう(七六)洞庭どうていひだりにし、(七七)彭蠡はうれいみぎにせしが、徳義とくぎをさまらず、これほろぼせり。
しかし今は日本に、——炎暑の甚しい東京に汪洋おうようたる長江を懐しがっている。長江を? ——いや、長江ばかりではない、蕪湖ウウフウを、漢口ハンカオを、廬山ろざんの松を、洞庭どうていの波を懐しがっている。
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかも私よりはるかに優秀らしい生徒が乗り合わせていたので、にわかに興がめて、洞庭どうてい西湖を恥じざる扶桑ふそう第一の好風も、何が何やら、ただ海と島と松と、それだけのものの如く思われて
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
水気の少い野の住居は、一甕ひとかめの水も琵琶びわ洞庭どうていである。太平洋大西洋である。書斎しょさいから見ると、甕の水に青空が落ちて、其処に水中の天がある。時々は白雲しらくもが浮く。空を飛ぶ五位鷺ごいさぎの影もぎる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
白石はくせき手簡しゆかんに八景のはじめは宋人か元人かにて宋復古と申す畫工云々とあるが、それは夢溪筆談に出てゐる度支員外郎宋迪そうてきの事で、平沙へいさ落雁らくがん遠浦ゑんぽ歸帆きはん山中さんちゆう晴嵐せいらん江天こうてん暮雪ぼせつ洞庭どうてい秋月しうげつ瀟湘せうしやう夜雨やう
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
私は、洞庭どうていの竜王のむすめでございます。
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何と云っても謀反人だからなあ、もう一度洞庭どうていへ行って見たいものだ。松江のすずきを食ってみたい。女房や子供はどうしたかな? 幾人女房があったかしら? あっ、そうだ、四人あったはずだ
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)