泡沫うたかた)” の例文
「さあれ、十年と経てば、この水のように、淙々そうそうと、すべては泡沫うたかたの跡形もない。——平家の、源氏のと、憎しみおうた人々の戦の跡には何もない」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆく尿ししの流れは臭くして、しかも尋常の水にあらず、よどみに浮ぶ泡沫うたかたは、かつ消えかつ結びて、暫時しばしとどまる事なし、かの「五月雨さみだれに年中の雨降り尽くし」とんだ通り
吾等われら何時いつすくはるゝといふ目的めあてもなく、なみまるゝ泡沫うたかたのあはれ果敢はかな運命うんめいとはなつた。
いつしかに太い筋綱にり合わさって、いやいやが身ひとの身なんどは夢幻の池のにうかぶつかのまの泡沫うたかたにしか過ぎぬ、この怖ろしい乱壊転変らんえてんぺんすがたこそ何かしら新しいものの息吹いぶ
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
世界は泡沫うたかたである。人生はつかの間に過ぎない。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
つひ泡沫うたかたはかなさです。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
水の色、かを泡沫うたかた
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
泡沫うたかた
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
川のなかばを越えるやいな、白い死線のしぶきが描かれ、みるまに、騎馬歩兵、次々に泡沫うたかたとなって消えうせる。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつしかに太い筋綱にり合はさつて、いやいやが身ひとの身なんどは夢幻の池のにうかぶつかのまの泡沫うたかたにしか過ぎぬ、この怖ろしい乱壊転変らんえてんぺんすがたこそ何かしら新しいものの息吹いぶ
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
もう泡沫うたかたの中にくつがえされて、たちまち浮きつ沈みつ流されてゆく武者の影が続出していた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ウウム、あなたは景帝の裔孫えいそんだったのか。治乱興亡の長い星霜のあいだに、名門名族は泡沫うたかたのように消えてゆくが、血は一滴でも残されればどこかに伝わってゆく。ああ有難い。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう濁流にせかれる花と泡沫うたかたの明滅みたいに、白い素足やら夜風のなかの被衣かずき、また、みだれにまかす黒髪などが、むかし薔薇園しょうびえんとよばれた六波羅北苑ほくえんの木戸から東山のほうへ落ちて行き
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とまれ僕だけでなく作家それぞれ万華百態な作品をマスコミのながれの中に書き送り、また泡沫うたかたのように消えるは消え、残るは残されてゆきましょうが、その奉行はもっぱら読者がしているのです。
親鸞の水脈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しと観るべきか。また、くだらぬ泡沫うたかたと観るべきか。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)