水々みずみず)” の例文
という頓狂声に、亭主の船頭が近づいて見ると、バケツの中に浮いているのは、確かに人間の、しかも水々みずみずしい女の腕に相違ない。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこはまだ、ほんのあかるい、白っぽい番小屋の、あおつッと切って、根岸の宵の、蛍のような水々みずみずしたあかりの中へ消込きえこんだ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然しこのまずしい小さな野の村では、昔から盆踊ぼんおどりと云うものを知らぬ。一年中で一番好い水々みずみずしい大きな月があがっても、其れは断片的きれぎれに若者の歌をそそるばかりである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
芝居の仕草しぐさや、浄瑠璃じょうるりのリズムにともない、「天下晴れての夫婦」などと若い水々みずみずしい男女の恋愛の結末の一場面のくぐりをつける時に、たった一つくらい此の言葉を使うのは
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
限り無い精力と、巨万の富と、行き届いた化粧法とに飽満ほうまんした、百パーセントの魅惑そのものの寝姿である……ことに、そのあごからくびすじへかけた肉線の水々みずみずしいこと……。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
犬は婆さんに抱かれたまま、水々みずみずしい眼を動かしては、しきりに鼻を鳴らしている。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、櫛巻くしまきの其の水々みずみずとあるのを、がつくりとひたいゆるばかり、仰いで黒目勝くろめがちすずしひとみじっと、凝視みつめた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはまた事によると、祭壇の前に捧げられた、水々みずみずしい薔薇ばら金雀花えにしだが、匂っているせいかも知れなかった。彼はその祭壇のうしろに、じっと頭を垂れたまま、熱心にこう云う祈祷を凝らした。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)