比々ひひ)” の例文
不幸にしてわが国にこの種の人はほとんどない。富者は多けれども神をおそるるの信仰なきは勿論もちろん、わが生みし子をすら治め得ざるもの比々ひひ皆しかりである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
蕉門しょうもんの著書といへども十中八、九は誤謬ごびゅうなり。その精神は必ずしも誤謬ならざるも、その字句はその精神を写す能はずして後生こうせいまどいを来す者比々ひひ皆これなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
和漢の歴史に徴しても比々ひひ見るべし。政治の働は、ただその当時に在りて効を呈するものと知るべきのみ。
政事と教育と分離すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それがために生涯の大失敗を招くもの比々ひひとしてなこれなりさ。四十歳までは誰でも小児時代勉強時代と心得なければならん。四十歳を越してからはじめて社会の大人になれる。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
僕の屑見せっけん、誠におもえらく、観望持重は、今の正義の人、比々ひひとしてみなしかり、これ最大の下策と為す。何ぞ軽快拙速、局面を打破し、然る後おもむろに地を占め石をくの、まされりと為すにしかんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
わがままの振舞いやが上に増長すると共に、細君もまた失望の余り、自暴自棄の心となりて、良人と同じく色におぼれ、はてはその子にまで無限の苦痛をめしむるもの比々ひひとして皆しかりとかや
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
かくの如きの竹ある機会に促がされて一朝花を着くるに至れば、あえてその稈の老幼に関せず、皆ことごとく花を出し、満枝一として花ならざるなく、花終てその稈遂に枯死に就くもの比々ひひ皆然らざるなし。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
故にかくの如き歌は、後人のこれを見るにもその場合を聯想してこそ幾多の興味はあれ、単独に歌として文学上より批評を下さば、三文の値打もなき者比々ひひこれなり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
世の青年子弟が一の学校を卒業すれば天晴あっぱれ自ら何の事もべしと信じ、無経験の身を以て大胆なる事業にあたり遂に失敗して世をうらみ自ら苦むもの比々ひひとしてなこれなり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
試みに思え、古来一丁字いっていじを知らざる母が、よくその子を育して遂に天下の一大家となしたる者あるにあらずや。この母氏の教育の法を知らんと欲せば、歴史を開きて比々ひひ見るべきなり。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
世の文人ぶんじん墨客ぼっかく多くこれらの地に到り佳句を得ざるを嘆ずる者比々ひひこれなり。これけだし美術文学を解せざるの致す所か。富士山の形は一般の場合において美術的ならず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
◎世間父兄の子を教ふるを見るに倫理に遠く人情にうとき者比々ひひこれなり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)