歿みまか)” の例文
宮は我とも覚えず浅ましがりて、産後を三月ばかり重く病みけるが、そのゆる日をたで、初子うひごはいと弱くて肺炎の為に歿みまかりにけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
物心ものごころついた小娘時代こむすめじだいから三十四さい歿みまかるまでの、わたくし生涯しょうがいおこった事柄ことがら細大さいだいれなく、ここで復習おさらいをさせられたのでした。
爾がためには父のみか、母もやみ歿みまかりたれば、取不直とりもなおさず両親ふたおやあだ、年頃つもる意恨の牙先、今こそ思ひ知らすべし
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
それは、先主が歿みまかられてから間もなくのことで、去年の五月の初めでしたが、その夜は、ハイドンのト短調四重奏クワルテット曲の練習を、礼拝堂でやることになりました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
浅草で母親が病んで歿みまかる時、手を着いて枕許まくらもとに、衣帯を解かず看護した、滝太郎のうなじを抱いて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鹽原多助は養父角右衞門が歿みまかりまして、三七日の寺詣りにまいりました帰りがけ、悪者小平、仁助のためにおえいが再びさらわれてまいる所へ通り掛りましたのは、土岐様の御家来原丹治親子で
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そののち十一の秋、母親が歿みまかると、双葉にしてらざればなどと、差配佐次兵衛、講釈に聞いて来たことをそのまま言出して、合長屋が協議の上、欠けた火鉢の灰までをおあしにして
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貫一は不断にこのことばいましめられ、隆三は会ふ毎にまたこの言をかこたれしなり。彼はものいいとまだに無くてにはか歿みまかりけれども、その前常に口にせしところは明かに彼の遺言なるべきのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
めゝしくも一日々々と看病に其の日を送り、命数尽きて母は歿みまかりましたゆえ、今日こんにち母の葬式を済まし、一七日ひとなのか経ちたる上は卑怯未練なるの蟠龍軒を捜し出して、只一打ひとうちと思い詰めたる時こそあれ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
真夜中に若草そっと起上ってかくしてある手箱の中から取出したは、親鋏鍛冶金重が鍛えたる、小刀には大きいが短刀には少し小さき、金重と銘の打った合口で、金重の歿みまかるときに、女のたしなみだから