ひろ)” の例文
「どうじゃ範宴、きょうは、わしにいてこないか」陽が暖かくて、梅花うめかんばしい日であった。庭さきでもひろうように、慈円はかろく彼にすすめる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懐中ふところも冷めてえが浮世も冷めてえ」もう一度呟やいたがコツコツと行く。突っ張る杖も覚束ない。胸をらせて首を縮め、さもあぶなっかしいひろい方である。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……海も山もさしわたしに、風でお運び遊ばすゆえに、半日には足りませぬが、宿々しゅくじゅくひろいましたら、五百里……されば五百三十里、もそっともござりましょうぞ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちに、又々妖しの酒の反応が現れて、こんどは全身がかゆくなる。かゆくて苦しみ出すころ、自動車は彼女の家の近くに来ている。隠れ家をくらますために家の近所で降りて、あとはおひろいだ。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大きな墨西哥帽ソンブレロ。そろそろとおひろいになる桑の実いろのケープ。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そこをくぐって、あたりを見ながら、芝生をひろって、こずえの揃った若木のかえで下路したみちを、枯れたが白銀しろがねへりを残した、美しい小笹おざさを分けつつ、やがて、つちも笹も梢も、向うへ、たらたらと高くなる
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「この雪では、とても国府こうの町までも、おひろいはかないますまい」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)