武夫もののふ)” の例文
民部みんぶ、わしはこんどはじめて、いくさの苦しさを知った。あさはかな勇にはやったのがはずかしい。しかし武夫もののふ、このまま退くのは残念じゃ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭師の扮装はしているが、決して尋常な庭師ではなく、いずれも名ある武夫もののふが何か世を忍ぶ理由わけがあって、そんな姿にやつしているのであろう。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
Druerie と呼ぶ。武夫もののふが君の前に額付ぬかずいてかわらじと誓う如く男、女の膝下しっかひざまずき手を合せて女の手の間に置く。女かたの如く愛の式を
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其の兵器を鳩集きふしふする所以ゆゑんのものは、あたか上国孱士じやうこくせんしの茶香古器をもてあそぶが如し。東陲とうすい武夫もののふ皆弓槍刀銃をたしなまざるなし、これ地理風質のことなるにるのみ。
いやしくも武夫もののふの姿をした者共の為すべからざる、いたずらであるに拘らず、このいたずらは、誰にも発見されず、その残したいたずらの脱け殻だけが人騒がせをして
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なおくらき杉の並木、羊腸の小径は苔なめらか、一夫関に当るや万夫も開くなし、天下に旅する剛毅の武夫もののふ、大刀腰に足駄がけ、八里の岩ね踏み鳴す、くこそありしか往時の武夫
箱根の山 (新字新仮名) / 田中英光(著)
口賢くちかしこくいい抜けるな、慎九郎は憎し、さりとて己れは非力でうち勝つ見込みはない、それで泣いているのじゃ、骨細男とはいえ武夫もののふじゃ、白昼、諸人の目前で泣く奴があるか」
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
武夫もののふたまとむらふや音たてゝ枯草山にひたしぶく雨
城山のことなど (旧字旧仮名) / 桜間中庸(著)
「万代の秘書にはござりまするが、多門兵衛様には忠誠丹心ちゅうせいたんしん、まことの武夫もののふと存じますれば、別儀をもちまして、お眼にかけるでござりましょう」
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ゆかしいご謙遜、いよいよ敬服しました。貴殿のようなお方こそ、真に強くてやさしい武夫もののふというものかと、しみじみ、わが身が顧みられます」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「昔の歌に、武夫もののふ手向たむけ征箭そやも跡ふりて神寂かみさび立てる杉の一もと、とあるのはこの杉だ」
武夫もののふの家に生れて、武夫の道をふみはずし、賊の汚名をきて朽ちては、口惜しゅうはござりませぬか
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、二十歳はたちばかりの多感な武夫もののふは、感極かんきわまって、後は両手をつかえているだけだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「世に理のなき妖術などがあろうか。武夫もののふたるものが、幻妖げんようの術に怖れて、木の根にすがり、大地を這い、戦意を失うとは、何たるざまぞ。すすめや者ども、関羽の行く所には妖気も避けよう」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと、武夫もののふの妻たる日頃の覚悟と、弥陀みだの御さとしの助けであった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「伯耆の心は、憎くおもう。けれど、伯耆はやはり一流の人物たるに変りはない。武夫もののふ行化ぎょうげあなどるべからず——じゃ。家康にとっては、大きな損失よ。この損を、何かで埋め合わせつけねばならぬ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武夫もののふの、つゆの命も」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)