極々ごくごく)” の例文
御幣担ぎを冷かす同窓生のあいだには色々な事のあるもので、肥後から来て居た山田謙輔やまだけんすけと云う書生は極々ごくごく御幣担ごへいかつぎで、しの字を言わぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
断つて置く、以下に書き記す処は、或は此無限の生命ある世界に於て、殆んど一顧の値だに無き極々ごくごく些末の一事件であるのかも知れない。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「いろいろやるらしいよ。だが、なんたって、前中納言、ご三家のうちだ。めったなことは洩れないように、極々ごくごく、内密にしているらしいなあ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとは極々ごくごく内気うちきの優しいかたが、この頃ではだいぶ気が荒くなって、何だか心配だと源兵衛が来るたびに申します。……
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それからと申すもの、兄はこの眼鏡の中の美しい娘が忘れられず、極々ごくごく内気なひとでしたから、古風な恋わずらいをわずらい始めたのでございます。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とにかく現代に於ては沖縄人にして第一この大欠点をうめあわす事が出来ないとしたら、沖縄人は市民としても人類としても極々ごくごくつまらない者である。
沖縄人の最大欠点 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
極々ごくごくの難所で、木の枝に取りついたり、岩の間をつたったりして、ようやく峠を越えることができた。その辺の五か村は焼き払われていて、人家もない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
極々ごくごく親しい間の御家来衆でなければ、決して人をお近づけになりませぬ、宿におりましても、御主人様でさえお顔を見たものはござりませぬ、朝も、晩も
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
逸作の特種な欲望とは極々ごくごく限られた二三のものに過ぎないと言える。その一つが、今かの女に刺戟しげきされた。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この時必ず禍敗を取るなり。禍敗の後、人を謝し学を修め一箇恬退てんたいの人となりたまわば、十年の後必ず大忠を立つる日あらん。極々ごくごく不幸にても一不朽の人となるべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
なあに参りは参っても肝心のお話は極々ごくごくつまらない面白くないものだからただ此処ここまでやってきた私の厚意だけを汲みとってもらえばそれでもう沢山である。(笑声起る)
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
極々ごくごく愚鈍の富者は小間物屋の肆前みせさきに立って、ああ悲しいかな、今は吾が買うき何物をも新に見出し得ざるに至ったと嘆じて、何か買いたい物の有った時の幸福さを味わうと同時に
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おとよの念力が極々ごくごく細微な径路を伝わって省作を動かすに至った事は理屈に合っている。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
野澤先生は自分の極々ごくごく祕密にして居たことを知つて居るのだといふ考である。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
呉須は非常にむつかしいのだそうで、これで当時一家をなしてる人はなかったようだ。赤絵という方は、しゅ極々ごくごくこまかく念入りに描いたもので、これには必ずきんが使ってあるのが普通だった。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
いいや、そうだ、極々ごくごく、少数かもしれないが、われわれとか、世の心ある一部では、そういっている。しかるにだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乗船切符を偽らず右様な大金の話でない、極々ごくごく些細の事でも一寸ちょい胡麻化ごまかしてむさぼるようなことは私の虫が好かない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ママも年とったらアイノコの孫を抱くのだね、楽しみだね」と、極々ごくごく座興ざきょう的ではあったけれど或時かの女がそれを息子の前で言ってどやされたことをかの女は思い出した。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
氏は極々ごくごくあたりまえの顔をして「炎天の地下層にですな、小人がうじゃうじゃこうとしてるんじゃ無いですかな。」「え?」私はたらたら汗を流して居る氏を、不思議に見詰めた。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
以上。……お耳へまで達したことは、極々ごくごく、内密の儀にござりますれば、そのおつもりで。——同時に、甲州へのお使い、また、浅井家や朝倉家などへも、機をいっさぬように、御密書を
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
召捕あげに来たのじゃない。十手は、奉行所の者だというしるしだけにおいたのだ。知っていることを、知っている通りにいってくれれば……そうさな、極々ごくごく、軽いところで、済まそうじゃないか
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともかく女同志の親密な気持ちには時々はかり知れない神秘的なものが介在してゐるかと思へば極々ごくごくつまらない迷信にも一大権威となつて働きかけられる場合もないではないぢやありませんか。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
寒い、喰べもののまずい病院から引き取って世話をしたと言ったまででは、極々ごくごく当りまえの世話人根性のようだけれど、その実、気違いの京子と暮す事は何という気遣いな心の痛む事業だろう。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)