こうぞ)” の例文
○半紙だか美濃紙みのがみだか、また西の内だか何だか知らぬが、とにかくこうぞの樹皮から製した日本紙を張った障子の美は、もう久しい前から
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
極端なる簡易生活にあって、こうぞの紙の手に入らぬ時代、なおぜひとも後に伝えねばならぬものは、これを樺皮に描いておいたのである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こうぞしげれば、和紙の産地である。麻が畑に見えれば、麻布を予期していい。同じ土焼どやきの破片が数あれば、それでかまが見出せたともいえる。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それも今時いまどきに珍しい原始的な方法で、吉野川の水にこうぞ繊維せんいさらしては、手ずきの紙を製するのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
次に天のカグ山のしげつた賢木さかき根掘ねこぎにこいで、うえの枝に大きな勾玉まがたまの澤山の玉の緒を懸け、中の枝には大きな鏡を懸け、下の枝には麻だのこうぞの皮のさらしたのなどをさげて
水が豊富で土地にこうぞが植えられる関係から昔からこの界隈には手工業の和紙工場が在りました。それ等を改めて近代的な設備の洋紙工場にしたのが百瀬の本家の弥太郎翁の功績の一つでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こうぞを、小鉢と呼ばれる椀に一杯盛り上げた量が一槽分で、三十枚乃至ないし三十五枚の紙になった。十五の年から父と交替できはじめた友太は、今では、若手のうちでも熟練者として数えられていた。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
若松から程遠くないところに喜多方きたかたの町がありますが、ここでは良い生漉きずきの紙が出来ます。材料は凡てこうぞで強い張りのある紙であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
是は「安倍あべ山中にて織出し、こうぞの皮をもって糸として織るものなり、又ふじを以て織るものもあり」と書いてある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
石見と南朝鮮とは向い合っている間柄であります。「石州」と呼ばれている手漉紙は、強いこうぞから作られ、色は黄味きみを帯び極めて張りのある品であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
藤葛または「いぬからむし」などのほかに、なお衣服の原料であったかと思われるのはこうぞである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
因幡紙いなばがみ」の名で知られ、八頭やず郡の佐治さじとか、気高けだか郡の日置村とか、その他の漉場からこうぞの紙が出されます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
粉のさわし方は煮てどろどろにして上から水を当てる。これに用いる栃棚とちだなといい、こうぞの皮で編んで布が敷いてある(ひだびと六巻二号)。これを十分に乾燥して後に貯蔵するものと思われる。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ほどなく街道の左手にこうぞく仕事場を見つけた。舟もし場も野天である。何も大ぎょうな施設はない。これで天下第一の紙が生れるのである。楮紙の最上なものは全州産だという。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ごく細い篠竹しのだけ、紙を製するところではこうぞの小枝、養蚕ようさんのさかんな土地でくわの枝、またはささの葉で葺いている例もわたしは知っているが、そういうのは全国いっぱんということができないであろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
後者は明代に法が渡ったのでその名を得たという。その他広く知られているあの苔紙たいしを作る。苔紙はその苔紙が曲るのを尊び、直線になったものは死苔といって賞美しない。どの紙も材料はこうぞである。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)