すみか)” の例文
『舟の上に生涯を浮べ、馬の口をとらへて老を迎ふるものは、日々旅にして、旅をすみかとす。古人も多く旅に死せるあり。』
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
水鶏くいなだって、わが家の戸を叩いたかと思うくらい近くを啼いてゆく。——それにしても、何んとまあ物思い自身の巣くっているようなすみかなのだろうかしら。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
チェチーナとコルネートの間なる耕せる處を嫌ふ猛き獸のすみかにもかくあらびかくしげれる※薈しげみはあらじ 七—九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
わざわざこの樺の林にまで辿たどりついて、地上わずか離れて下枝の生えた、雨しのぎになりそうな木立を見たてて、さてその下にすみかを構え、あたりの風景を跳めながら
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
に近きところには、盜人の屍の切り碎きて棄てたるなり。隻腕かたうで隻脚かたあしは猶その形を存じたり。それさへ心を寒からしむるに、我すみかはこゝより遠からずとぞいふなる。
月日は百代はくたい過客くわかくにして、行きかふ年も又旅人なり。船の上に生涯しやうがいをうかべ、馬の口とらへておいをむかふる者は、日々旅にして、旅をすみかとす。古人も多く旅に死せるあり。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ガドウ教授蛇の行動を説いて曰く、蛇は有脊髄動物中最も定住するもので、餌とすみかさえ続く中は他処へ移らず、故に今のごとくるには極めて徐々漸々と掛かったであろう。
……此世は常のすみかに非ず、草葉に置く白露、水に宿る月より猶怪し、金谷かなやに花を詠じし栄華は先立さきだって、無常の風に誘はるゝ、南楼の月をもてあそやからも月に先立て有為の雲に隠れり。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
船の上に生涯をうかべ、馬口うまのくちとらへて老をむかふる物は、日々旅にして旅をすみかとす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊のおもひやまず……
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
まだをぢがすみかにゆき着かぬに、日は暮れぬ。我は一言をも出さず、顏をおほうて泣き居たり。
想ふに風雨一たび到らば、このわたりは群狗ぐんく吠ゆてふ鳴門なると(スキルラ)のくわいすみかなるべし。