本町ほんまち)” の例文
医学士ウラヂミル・イワノヰツチユ・ソロドフニコフは毎晩六時に、病用さへなければ、本町ほんまちへ散歩に行くことにしてゐた。
虎杖いたどりもなつかしいものの一つである。日曜日の本町ほんまちの市で、手製の牡丹餅ぼたもちなどと一緒にこのいたどりを売っている近郷の婆さんなどがあった。
郷土的味覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
本町ほんまち大塚おおつかさん、鴇窪ときくぼ井出いでさん、その他の娘たちとともに、荒町あらまちからかよっていたのが小山喜代野さんでした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その植え込みの中に大きなハマユウがあったことを今も記憶している。同君の邸は高知本町ほんまちの南側にあって、店ではその息子さんが時計などを商なっていた。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
この時本町ほんまちかたより突如とつじょと現われしは巡査なり。ずかずかと歩み寄りて何者ぞと声かけ、ともしびをかかげてこなたの顔を照らしぬ。丸き目、深きしわ、太き鼻、たくましき舟子ふなこなり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
巴屋の店の方へ行く順路は、柳橋を右に見て、横山町を真っ直ぐに大伝馬町から本町ほんまちへ出るのですが、その辺の横町、路地、大通りには、銭形のしおりなどは一つもありません。
本町ほんまち三丁目筋にかけて、篠つく大雷鳴のなかを、文字もじどおり、血の雨が降ったわけでな、なんちかんち、その荒けないことというたら、この友田の愛用の白鞘の一刀なんど
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
七つ半過に鳥巣とす中屋敷なかやしきに来て、内山の口上を伝へて、本町ほんまち五丁目の会所くわいしよへ案内した。時田以下の九人は鳥巣とすを先に立てゝ、外に岡村桂蔵と云ふものを連れて本町へ往つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
清水川という村よりまたまた野辺地のべちまで海岸なり、野辺地の本町ほんまちといえるは、御影石みかげいしにやあらんはば三尺ばかりなるを三四丁の間き連ねたるは、いかなる心か知らねど立派なり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「おい、君は本町ほんまち交叉点かい。今飛行機が君の方へ飛んだから用心するんだぞ。」
と栄町から本町ほんまちへ折れると間もなく三輪さんが訊いた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
本町ほんまちの方からは号外売が鈴を振鳴して息を切つて駈出して来る。あの鈴のは私の耳に着いてしまつた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そういって、マンは、ちょっと立ちどまったが、二人の姿が、街角から消えると、格別、なにごともなかったような顔つきで、本町ほんまち筋に出た。もう灯の消された家が多く、街は暗い。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
高知の本町ほんまち堀詰座ほりづめざという劇場があった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
机にむかつて、復た私は鉛筆の尖端さきを削り始めた。今度の長物語を書くには、私は本町ほんまち紙店かみやで幅広な方のけいの入つた洋紙を買つて来て、堅い鉛筆でそれに記しつけることにして居る。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
小諸はこの傾斜に添うて、北国ほっこく街道の両側に細長く発達した町だ。本町ほんまち荒町あらまちは光岳寺を境にして左右に曲折した、おもなる商家のあるところだが、その両端に市町いちまち与良町よらまちが続いている。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)