暇潰ひまつぶ)” の例文
さる無駄口に暇潰ひまつぶさんより手取疾てっとりばやく清元と常磐津とを語り較べて聞かすがし。其人聾にあらざるよりは、手を拍ってナルといわんは必定。
小説総論 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
まことに世をすねた好事家こうずかが、ひそかに暇潰ひまつぶしにこしらえたとも呼びたい、それはなんの意義をも持たぬかに見える全くの袋小路であった。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
こうなると、どこまで下司にできているか方途ほうずが知れない。俺もよけいな暇潰ひまつぶしをしたようなものの、そんな奴かと思ったら、やっと諦めがついたよ
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
子供を暇潰ひまつぶしのおもちゃとしてもてあそぶに過ぎない、と言った方が適当であることは、前にも申した通りです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
纏めるというのは黒白こくびゃくの決しかねる事柄ことがらについて云うべき言葉だ。この場合のような、誰が見たって、不都合としか思われない事件に会議をするのは暇潰ひまつぶしだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
アンデルセンの飜訳ほんやくだけを見て、こんなつまらない作を、よくも暇潰ひまつぶしに訳したものだと思ったきり、この人に対して何の興味をも持っていないから、会話に耳を傾けないで
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
自分の暇潰ひまつぶしにいい出した当人で仕方もないが、どうも、野見さん父子おやこに対して気の毒で、何んとも申し訳のないような次第でありましたが、さりとて、今さら取り返しもつかぬ。
少々ヨタが強過ぎるかも知れないが、どうせ死ぬ前の暇潰ひまつぶしに書く遺言書だ。ウイスキーがいくら利いたって構うこたあない。あとは野となれ山となれだ……ここいらで又、一服さしてもらうかね。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つれづれなるままに書いたのだが、単なる暇潰ひまつぶし、うさ晴らしともちがう。またそれは、詩というものを書こうとして書いたのではなく、俺の心をそうした短い詩形で現わそうとして書いたのである。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「小林様へ通るはいいが、いずれから参った?」と、暇潰ひまつぶしに網すきをしていた門番が面倒臭そうに聞き返した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
むか叔父をぢいへで、これおなことらせられたときは、暇潰ひまつぶしのなぐさみとして、不愉快ふゆくわいどころかかへつて面白おもしろかつた記憶きおくさへあるのに、いまぢや此位このくらゐ仕事しごとよりほかにする能力のうりよくのないものと
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
暇潰ひまつぶしの慰みとして、不愉快どころかかえって面白かった記憶さえあるのに、今じゃこのくらいな仕事よりほかにする能力のないものと、強いて周囲からあきらめさせられたような気がして
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中学と師範とはどこの県下でも犬とさるのように仲がわるいそうだ。なぜだかわからないが、まるで気風が合わない。何かあると喧嘩をする。大方せまい田舎で退屈たいくつだから、暇潰ひまつぶしにやる仕事なんだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)