景色けいしょく)” の例文
筆をって書いていても、魏叔子ぎしゅくし大鉄椎だいてっついでんにある曠野こうや景色けいしょくが眼の前に浮んでくる。けれども歩いている途中は実に苦しかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文政年間葛飾北斎かつしかほくさい『富嶽三十六景』の錦絵にしきええがくや、そのうち江戸市中より富士を望み得る処の景色けいしょくおよそ十数個所を択んだ。
時候はよし、四方の景色けいしょくはよし、木蔭こかげ石灯籠いしどうろうの傍などに、今の玩具を置いて其所そこに腰打ち掛けて一服やっている。
一同は一足お先に那河川なかがわに架けたる橋を渡り、河畔の景色けいしょくき花月旅店りょてんに着いて待っていると、もなく杉田先生得意満面、一行の荷物を腕車わんしゃに満載してやって来た。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
東坡巾の先生は囅然てんぜんとして笑出して、君そんなに感服ばかりしていると、今に馬糞まぐそ道傍みちばた盛上もりあがっているのまで春の景色けいしょくだなぞとめさせられるよ、とたわむれたので一同みんな哄然どっ笑声しょうせいげた。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いくら仏蘭西フランスの絵がうまいと云って、その色をそのままに写して、これが日本の景色けいしょくだとは云われない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
豊国はかくの如く年々各座の当狂言あたりきょうげんを描きてまざりしのみならずまた別に俳優の衣裳いしょうかつらをつけざる日常の姿を描きこれに四季折々の花鳥かちょうあるひは景色けいしょくを配合したり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
来るたびに自分の国の景色けいしょくやら、習慣やら、伝説やら、古めかしい祭礼の模様やら、いろいろの事を話した。彼の父は漢学者であると云う事も話した。篆刻てんこくうまいという事も話した。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いらないものを抜いたり、いったいの調子をやわらげたり、きわどい光線の作用を全景にあらわしたり、いろいろな事をやるんです。早いものでもう景色けいしょく専門家や人物専門家が出来てるんですからね
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は英人でありながら、かつて英国の景色けいしょくをかいた事がない。彼の画題は彼の郷土にはない。彼の本国に比すると、空気の透明の度の非常にまさっている、埃及エジプトまたは波斯辺ペルシャへんの光景のみをえらんでいる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下って大雅堂たいがどう景色けいしょくである。蕪村ぶそんの人物である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)