)” の例文
ミチは一気に浴槽からおどり出し、薔薇色の肉体を夜明けの電燈の光にらし、湯気に包まれた自分の腹を見下ろして、刺青の唐子を指さす。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
一段高い岩の上に「虎狼の宮」の古風の社殿がおごそかに立っているばかりで、木立さえないらしの境内には犬の子一匹いないのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで僕が自分の恥をらして物語り、怖気おじける人の参考に供したき要点は、相手をしんじてかかれということである。渡る世間におにはない、鬼でさえ頼めば人を食わぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その夜は木枯しの風が野を吹きらして寒月が高く天に照り凍っておりました。たんとはいけない。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
立派な人格者と評判されている夫が、小間使に子供を産ませたなどと、そんな不行跡を明るみにらされてはたまったもんじゃない、夫の不名誉は妻の不名誉でもあるから——。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
二葉亭は『倫敦ロンドンタイムス』『ノーウ・オウレーミヤ』『モスコー・ウェドモスチ』等の英露及び支那日本の外字新聞数十種に常に眼をらしていた。『外交時報』は第一号から全部を
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかしサンドウィッチには臭いような悪いバターを使うといけません。バターの匂いで外の物の味を消します。上等のバターを水でよくらして匂を取って使わなければなりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
長い歳月にらされたと云う事が、複雑な感情をお互いの胸の中にたたみこんでしまった。昔のあのなつかしさはもう二度と再び戻っては来ないほど、二人とも並行して年を取って来たのだ。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
毒瓦斯どくガスの中に、らすこと対して、たゞこれを不可抗力の運命と視して考えずにいられようか? 互に、罪もなく、怨みもなく、しかも殺し合って死なゝければならぬ子供等自身の立場に立ちて
らしてあるいていたもんや
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
らされて帆立貝ほたてがい
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
無残の屍骸かばねらすということは、特に『心臓捕り事件』として、つとに報じた所であるが、今暁復もや其犠牲者が、川口の水面に浮かんで来た。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
啓司は、風雨に洗いらされて舟板のようになっている床の上に寝転んで、懐の中から本を二冊頭の辺に投げ出しました。わたくしは少し離れて床の敷居の端に腰かけました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一糸も身につけぬ裸像を人眼にらすのは銭湯では当然であり、それ以上、ミチはなんの要求も受けて居ず、藤三だけが自分の満足のためにミチの希望に対して金を与えて居るに過ぎず
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
幾年風雨にらされたものか屋根も板囲いも大半崩れ見る影もなく荒れていたが、この小屋こそは十数年前に窩人の娘山吹と城下の商人あきゅうど多四郎とがしばらく住んでいた小屋なのである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その秋の陽にらされているのは若い女の死骸であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)