斯界しかい)” の例文
そのころハイカラな商売とされた斯界しかい先達せんだつであり、その商売に転向した多勢の佐倉藩士の一人で、夫人も横浜の女学校出のクリスチャンであり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すべて記載されたる年数に近きものたるは勿論もちろんなるべしといへども、斯界しかいの研究者は必ずや見て以てフェノロサが推断の誤謬ごびゅうなきに驚かざるを得ざるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
アッコルティ先生は、前年度の学会にゴリラ定期鬱狂説を発表して、斯界しかいに大センセーションをまき起した。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
自らの考案になった機に乗って斯界しかいのために尽そうとした最初の日に墜落して名誉の犠牲者となったということや、米国大使が聖路加せいろか病院で逝去されたことなどが報じられた。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
東京——(壱)——芸学校の教授にして、(弐)——術院の委員、審査員、として、玄武げんぶ青竜せいりゅうはいざ知らず、斯界しかいの虎! はたその老齢の故に、白虎びゃっことなえらるる偉匠である。
故郷の筑紫にちなんで不知火流と唱え、孤剣をもって斯界しかいを征服した司馬先生も、老いの身のやまいには勝てなかった。暗い影のなかに、いまはただ、最後の呼吸を待つばかりであった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
近代の霊媒中、嶄然ざんぜん一頭地をいて居るのは、何と言ってもステーントン・モーゼスで、その手にれる自動書記の産物『霊訓スピリットティチングス』は、たしかに後世に残るべき、斯界しかいのクラシックである。
現在斯界しかいの専門家、及び、遺伝学者間の論議の中心となりおり、しかも這般しゃはんの奇現象を説明し得べき学説のうち、最も権威あるものとして、他の諸説を圧倒しつつあるは目下のところ唯一つ
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
斯界しかいの最高権威となったヒルミ夫人は、一昨年ついに結婚生活に入った。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
足を斯界しかいに投じてまだやつと五年にしかならないのに、世間は俺を一廉の働手にしてしまつた。俺は欝然としてもう一家をなした。あんまり早い昇進である。けれども俺は寂しい。一人ぽつちだ。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
『大日本植物志』の如く、綿密な図を画いたものは、斯界しかいにも少ないから、日本の学界の光を世界に示すものになったと思っている。あの位の仕事は、なかなか出来る人は少ないと自負している。
また当時の美術界に重きをせる人々の所説をも聞き、明治十三年以降その当時に及んでいる斯界しかい趨勢すうせいの大略をも知ることが出来、また、その現在の有様をも了解することが出来たようなわけで
この書出でてより斯界しかいの研究は最早もはやその第二次とすべき一局面の細密なる蒐集以外主要の点については全くすべき余地なきに至りしといふも過賞にあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
斯界しかいの、萎靡沈衰いびちんすいは作家各自より、新人諸君に於いてもっとも甚だしいとする。従って、いかに営業部が続刊を迫るとも、もうわれわれにはこの上の情熱がない。
東京の庚戌会に出席して斯界しかいのチャキチャキの連中と交際し、連絡わたりを付けるのは地方開業医の名誉であり、且、大きな得策でもあり得るのだから、その意味に於て優越な立場にいる白鷹氏は
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は正しく斯界しかいの権威であると同時に、大恩人でもあった。
ふつつかながら斯界しかいに於きまして、仏蘭西フランスのパオロ・オデロイン夫人と相並んで、邪妖探偵劇の二明星みょうじょうとキワメを附けられております天才女優、天川呉羽嬢が、その最後の独白、独演において
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
只圓翁の追善能記念事業を計画するなぞ福岡の斯界しかいを風靡していた。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そうして流石さすが斯界しかいの権威と首肯うなずかれる手練さと周到さをもって、一点の曇りもない、玲瓏れいろう玉のような少女の全身を、残るくまなく検査してしまいましたが、やがてホッとしたように肩で息をつきますと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)